平成19年度信託税制改正前は、特定目的信託と特定投資信託の例外を除いて、原則として信託そのものが課税対象となることはありませんでした。
しかし平成18年度信託法改正により、新しい信託法に対応する形で平成19年度信託税制改正があり、その中で信託に対する一般的な課税方法のひとつとして、信託そのものを課税対象とする方法を導入しました。
このように信託そのものが課税対象となるような信託を「法人課税信託」と言います。
今回はこの法人課税信託を解説します。
法人課税信託の仕組み
信託の概要での説明の繰り返しになりますが、法人課税信託の仕組みをもう一度説明します。
✔導管理論
信託とは「AさんがCさんに利益を与えるために、Aさんの保有する財産ををBさんに託し、Bさんがその財産を管理・運用することで得た利益をCさんに与える仕組み」です。
この場合、Aさんが委託者、Bさんが受託者、Cさんが受益者となります。
もっと短く言うと信託とは「Aさん(委託者)の利益をCさん(受益者)に移すこと」です。イメージは「AさんとCさんの間に導管が通っており、その導管を伝ってAさんの利益をCさんに移す」ということです。

このような考え方を「導管理論」といいます。平成19年度の信託税制改正前も改正後も引き続きこの「導管理論」をベースしています。しかし平成19年度の信託税制改正の前後でこの「導管理論」をベースとした考え方が大きく変化しました。
以下、税制改正前の考え方と税制改正後の考え方を説明します。
✔平成19年度信託税制改正前
平成19年度改正前は「利益は導管の途中で詰まることはない」という基本原則がありました。
つまり、「利益が受益者に届いているなら受益者課税を行い、受益者不存在などを理由に利益が受益者に届いていないなら、利益は導管の途中で詰まることはないから、委託者の下で利益が止まっており、よって委託者に課税する」という課税方法を採用していました。
しかし、この課税方法は信託財産の所有権が受託者に移転し、委託者は支配権を有しておらず、かつ委託者の利益とならない信託利益につき、委託者課税を行うことは不合理であると批判されていました。
✔平成19年度信託税制改正後
平成19年度改正により、大きく変わったのは「利益は導管の途中で詰まることがある」という考え方を採用したことです。
つまり、「利益が受益者に届いているなら受益者課税を行い、受益者不存在などを理由に利益が受益者に届いていないなら、利益が導管の途中で詰まっていると考え、導管自体に課税する」と言う課税方法を採用することになりました。
この「導管自体に課税する」というのは言いかえれば「信託に対して課税する」ということです。そして「信託」とは「委託者、受託者、受益者が存在する法律関係のこと」であり、信託自体が一つの組織体ということではありません。つまり「委託者、受託者、受益者という法律関係である信託を一括りの組織体とみなして、そのみなし組織体に法人税を課す」ということです。

このように「委託者、受託者、受益者という法律関係である信託を一括りの組織体とみなして、そのみなし組織体に法人税が課されるような信託」のことを「法人課税信託」と言います。
しかし信託は1つの組織体ではないので、そのままでは法人税の納税義務者が存在しません。そこで信託そのものに法人税を課すという考え方を採りつつ、その納税義務者を便宜的に受託者としています。よって法人課税信託における法人税の納税義務者は受託者となります。
✔法人課税信託における受託者に対する課税
上記のとおり、法人課税信託は信託そのものに法人税が課されます。そして、当該法人税の納税義務者は受託者とするのが適当と考えられたので、受託者にその責任を押し付けた形です。
このこと(信託そのものに対する法人税課税による納税義務の責任を受託者に押し付けたこと)は法人課税信託について定められた法律を確認すると読み取ることができます。
すなわち、法人課税信託に係る法人税の納税義務者は、受託者である法人または個人です(4条1項・4項)。ただし受託者の固有資産に帰せられる所得と信託財産に帰せられる所得とは別々に課税されます(4条の2、所得税法6条の2)。つまり、受託者が法人なら当該法人に係る法人税と信託に係る法人税を別々に申告納付しなければならないし、受託者が個人なら、当該個人に係る所得税と信託に係る法人税を別々に申告納付しなければなりません。両者の間で損益通算はできないし、固有部分と信託部分では事業年度も異なりえます(13条1項)。
このように受託者の固有部分と信託部分を完全に分離し、それぞれ別々に申告納付することを要求しているのは、「信託そのものに対する法人税課税による納税義務の責任を受託者に押し付けた」からです。
✔法人税法上、法人課税信託の受託者は通常の法人と同様の扱いがなされるように規定されている
「信託そのものに対する法人税課税による納税義務の責任を受託者に押し付けた」場合、受託者は当該法人税の納税義務者として法人税の申告納付を行わなければなりません。
そして法人税の申告納付は法人が行うものなので、当該受託者を「受託法人」(4条の3)と定めます。つまり、法人課税信託の範囲内で受託者は「法人」と認定され、通常の法人に対して定められている規定が適用されることになります。
それは以下のとおりです。
・法人課税信託の信託された営業所等が国内にある場合には、当該法人課税信託に係る受託法人は内国法人とされます(4条の3第1号)。
・信託の併合は合併とみなされ(4条の3第4号)、信託の分割は分割型分割に含まれます(4条の3第5号)。
・法人課税信託の受益権は株式または出資とみなされ、受益者は株主等に含まれます(4条の3第6号)。
・受託法人は法人課税信託の効力の生ずる日に設立されたものとされ(4条の3第7号)、信託の終了があった場合には受託法人の解散があったものとされます(4条の3第8号)。
・収益の分配は資本剰余金の減少を伴わない剰余金の配当とされ、法人課税信託の元本の払戻しは資本剰余金の減少を伴う剰余金の配当とされます(4条の3第10号)。
法人課税信託の分類
法人税法の視点から信託を分類すると「①受益者等課税信託、②集団投資信託、③法人課税信託、④退職年金等信託、⑤特定公益信託等」の5つに分類されます。
このうち➂の法人課税信託は以下のようにさらに細分化されます。
➂ 法人課税信託(2条29号の2)
(a) 受益証券発行信託
(b) 受益者等が存在しない信託
(c) 法人を委託者とする一定の信託((あ)法人が事業の重要な部分を信託し、かつ当該法人の株主を受益者とするもの、(い)存続期間が20年を超える自己信託等、(う)収益の分配割合の変更が可能である自己信託等)
✔(a) 受益証券発行信託
受益証券発行信託は信託(①受益者等課税信託、②集団投資信託)の所で解説しましたが、もう一度、振り返ります。
簡単に言うと受益証券発行信託とは、信託財産から生じる運用益を得ることのできる権利を証券に表章し、受益権を譲渡しやすいようにした信託です。
受益証券発行信託は課税繰延が行われる危険性があり、一定の要件を満たしたものは課税繰延の危険性が少ないと判断され、「特定受益証券発行信託」として集団投資信託に分類されて課税繰延が認められます。つまり、運用益が生じた時点で課税されず、運用益を分配した時点で課税されるということです。
しかし、要件を満たさないものは「受益証券発行信託」として法人課税信託に分類され、法人課税を受けることになります。法人課税を受けるということは運用益が生じた時点で課税されるということであり、運用益を分配した時点まで課税を繰延べることができないということです。
つまり、法人課税を適用することで課税繰延を防止するのです。
✔(b) 受益者等が存在しない信託
信託の中には受益者が存在しない信託もあります。受益者が存在しないなら、信託利益を受益者に帰属させることができないため、受益者に課税できません。
しかし、受益者が存在しなくても信託財産から利益が生じる以上、当該利益に課税すべきです。
そこで受益者が存在しない信託につき、法人課税信託に分類して信託利益に課税できるようにしているのです。
詳しい話は後で行うので、ここでは軽く押さえて下さい。
✔(c) 法人を委託者とする一定の信託
平成18年度信託法改正により、従来にはなかった様々なタイプの信託の形が認められることになりました。
これに伴い、新たな信託の仕組みを利用した法人税回避が行われることが懸念されました。
特に租税回避のおそれが高い信託として、立法者は次の3つの類型を予想しました。それは、(あ)法人が事業の重要な部分を信託し、かつ当該法人の株主を受益者とするもの(2条29号の2ハ(1))、(い)存続期間が20年を超える自己信託等(2条29号の2ハ(2))、(う)収益の分配割合の変更が可能である自己信託等(2条29号の2ハ(3))の3つです。
これら3つの類型は、新たな信託を利用した法人税回避につながる可能性が高いものとして「法人課税信託」に分類し、法人課税を行うことにしました。すなわち、これらの信託につき法人課税を適用することにより、信託を利用した法人税回避をあらかじめ防止することが図られたのです。
これらの内容は後で詳しく説明します。
(b) 受益者等が存在しない信託
先ほども述べましたが、受益者が存在しない信託は、信託利益を受益者に帰属させることができないため、受益者に課税できません。
そこで受益者が存在しない信託につき、法人課税信託に分類し、受益者に課税できない代わりに信託そのものに法人課税をして、信託利益に課税できるようにしているのです。

✔目的信託
通常、信託は「委託者、受託者、受益者」で構成されています。しかし、信託の中には「受益者を定めない信託」があります。
文字どおり、信託の設定において受益者を定めないため、当該信託には受益者が存在しません。
平成18年度信託法改正前は、受益者を定めない信託は「公益信託」のみ認められていました。
「公益信託」とは、たとえばある人が「自分の財産を森林保全のために役立ててほしい」という公益目的で財産を信託するような場合であり、この場合、特定の受益者は存在しません。
しかし、平成18年度信託法改正により、「目的信託」という信託の新しい形が認められることになりました。
「目的信託」も「公益信託」と同じく受益者を定めない信託です。
それでは「公益信託」と「目的信託」の違いは何かと言うと、「目的信託」には公益目的がないということです。
「目的信託」とは、たとえばある人がペットを飼っていて、しかし自分の命があと少しとなったとき、このまま自分が死んでペットが残されてしまうことを心配し、ペットを受益者として自己の財産を信託しても、ペットは人ではないので受益者にはなれません。よって、通常の信託を利用してペットを救うことができないのです。そこで「自分の財産をペットのために役立ててほしい」という目的で財産を信託すれば、受益者不存在でも委託者のペットを守りたいという願いは叶う訳です。そしてこの場合、公益目的はありません。
「目的信託」はこのような世の中のニーズに答えるため、平成18年度信託法改正により新しく導入されました。
✔租税法上の受益者不存在信託と信託法上の目的信託
平成18年度信託法改正前は、受益者を定めない信託として「公益信託」のみが認められ、公益目的のない「目的信託」はまだ認められていませんでした。
しかし、平成18年度信託法改正前においても「公益信託」以外に「受益者不存在の信託」は存在しました。
「公益信託」以外の「受益者不存在の信託」とは、たとえば、信託設定時にまだ生まれていない赤ちゃんを受益者として設定した場合、信託設定時はまだ生まれていないから「受益者不存在の信託」となります。
また、これまで「受益者が存在した信託」であったけれども、当該受益者が亡くなることにより、今現在受益者がいないなら、これも「受益者不存在信託」になります。
このような状況において、平成18年度信託法の改正により「目的信託」が認められることになり、受益者不存在信託の仲間入りをすることになったのです。

✔租税法上の受益者不存在信託と信託法上の目的信託
平成18年度信託法の改正に対応して平成19年度に信託税制が改正されました。この時、租税法はどのように信託法改正に対応していたのでしょうか。
上図に租税法の対応を重ねると、下図のようになります。

□の部分が「租税法上の受益者不存在信託」と呼ばれる領域です。
□に入らない「公益信託」は信託財産に係る利益につき課税されません。□内の信託は、信託財産に係る利益につき課税されます。
平成18年度信託法改正前の信託に対応する税制では、図の左の□のような場合には、「導管理論」によると導管の途中で信託利益が詰まることがないと考えられていたため、受益者不存在で信託利益が受益者に届いていないなら委託者に利益が止まっていると考えて、委託者に課税していたと思われます。
これに対して平成18年度信託法改正後の信託に対応する税制では、図の右の□のような場合には、「導管理論」によると導管の途中で信託利益が詰まることがあると考えるため、受益者不存在で信託利益が受益者に届いていないなら導管の途中で利益が止まっていると考えて、導管自体(信託自体)に法人課税します。
なお平成18年度信託法の改正により「目的信託」が認められることになったため、この「目的信託」も「租税法上の受益者不存在信託」の一部として法人課税を受けます。つまり右の□の信託は「法人課税信託」に分類され、法人課税を受けるということです。
✔受益者不存在信託から受益者が存在する信託への移行について
□内の信託は受益者不存在の信託です。それでは受益者不存在の信託から受益者が存在する信託に移行することができるのでしょうか。もっと言えば「受益者不存在信託」と「受益者が存在する信託」の行き来はできるのでしょうか。
「受益者不存在信託」と「受益者が存在する信託」の行き来は「目的信託」と「それ以外」に分けて考えます。

「目的信託」は信託の変更により、受益者を定めることはできません(信託法258条2項)。また、受益者の存在する信託について、信託の変更により受益者の定めを廃止することはできません(信託法258条3項)。つまり、「目的信託」は「受益者不存在信託」と「受益者が存在する信託」の行き来はできません。
これに対して「目的信託」以外の租税法上の受益者不存在信託(信託設定時にまだ受益者たる赤ちゃんが生まれていない信託や受益者が死亡したために、今現在受益者のいない信託など)は、「受益者不存在信託」と「受益者が存在する信託」の行き来をすることができます。なぜなら、たとえば信託設定時に将来受益者となる赤ちゃんが生まれていなくても、生まれれば受益者が存在することになり、当該移行は認められてしかるべきだからです。
ところで「受益者不存在信託」から「受益者が存在する信託」に移行すると、受益者等に対する課税が可能となるので、「法人課税信託」から「受益者等課税信託」に移行することになります。
反対に「受益者が存在する信託」から「受益者不存在信託」に移行すると、受益者に対する課税が不可能となるので、「受益者等課税信託」から「法人課税信託」に移行することになります。
✔「受益者不存在信託」と「受益者が存在する信託」を行き来する場合の法律関係
「受益者不存在信託」から「受益者が存在する信託」に移行する場合の法律関係は、4条の3第8号、64条の3第2項・3項、相続税法9条の4第1項・9条の5などに規定されています。
反対に「受益者が存在する信託」から「受益者不存在信託」に移行する場合の法律関係は、相続税法9条の4第2項等に規定されています。
「受益者不存在信託」から「受益者が存在する信託」に移行する場合の法律関係を見てみます。
新たに受益者が存することとなり、受益者不存在信託で亡くなった場合は、法人の解散として扱われます(4条の3第8号)。その場合の受託法人は受益者等に対して、信託財産に属する資産および負債の帳簿価額による引継ぎをしたとされ(64条の3第2項)、当該受託法人において含み益課税(キャピタルゲイン課税)はありません。
新たに受益者となった者は、信託財産に属する資産・負債を帳簿価額により引継ぐとされます(64条の3第3項、所得税法67条の3第1項)。その理由は、受益者が受託者の課税関係を引継ぐためであると説明されます。
この説明から、受益者不存在信託を法人課税信託として法人税を課税するのは、受益者に対して課税できないことから行われる受益者課税の代替課税であることが分かります。
✔「目的信託」に対する租税上の取扱いについて
少し本題からは外れますが、ここでは「目的信託」に対して租税がどのような取り扱いを行っているのかを確認します。
平成18年度信託法の改正により「目的信託」が認められるようになりました。「目的信託」とは「特定の受益者が存在しない、公益目的以外の目的を達成するために行われる信託」のことです。
「目的信託」の例としては、先ほど説明したペットの保護を目的とした信託などがあります。「目的信託」は社会的なニーズに対応して導入された信託です。
しかし「目的信託」には弊害があります。それは信託財産が信託目的のために縛られてしまい、その結果、信託財産が経済的に有効に使われず、経済的損失が生じてしまうという弊害です。たとえば都会の一等地に土地を持つ人が「この土地には建物を建てず、緑地として維持して皆の憩いの場にして欲しい」という目的信託を設定した場合、本来なら当該土地に建物を建てた方が経済的利益が大きいのにそれを実現させることができません。そこでこのような弊害を防ぐために、目的信託の存続期間は20年を限度としています。つまり目的信託は20年以内に必ず終了する信託なのです。
ところで、目的信託が定められた背景には公益法人改革の影響がありました。公益法人改革前は「公益性あり」と判定されなければ、社団法人や財産法人になれませんでした。つまり公益性のない社団法人や財団法人は存在しなかったのです。しかし改正により、社団法人や財団法人には自由になることができ、そのような社団法人や財団法人のうち「公益性あり」と判定されたものだけが公益法人となることができるように改正されました。
信託についても平成18年度信託法改正前は「公益目的あり」と判定される信託のみが受益者不存在信託(公益信託)と認められていました。つまり公益目的のない受託者不存在信託を信託契約で設定することができなかったのです。しかし公益法人改革の影響を受けて平成18年度信託法改正により、公益目的の有無にかかわらず受益者不存在信託である「目的信託」の設定が認められ、「目的信託」のうち公益目的ありと判定された信託が「公益信託」になると改正されました。

以下「目的信託」が税制上不利に扱われていることについて説明します。
「目的信託」は法人課税信託に分類され、受託者は受託法人となります(4条の3)。当該受託法人は66条5項6号により明文で軽減税率の適用が排除されています。つまり、目的信託の規模や性質に関わらず普通法人に対して課される法人税率である23,2%が適用されることになります。
これに対してある事業法人が中小法人と判定された場合、軽減税率が適用されます。つまり中小法人の軽減税率の適用が認められているなら、目的信託についても一定の要件を満たすものについては軽減税率の適用があってもよさそうなのに、法律上そのような規定は存在しません。
また、社団法人・財団法人との比較でも目的信託は課税上不利に取扱われていると言えます。一般社団法人・一般財団法人のうち、「公益性あり」と判定されたものは公益法人(公益社団法人・公益財団法人)となります。しかし「公益性あり」と判定されなかった一般社団法人・一般財団法人は「非営利型法人」とそれ以外に分類されます。「非営利型法人」とは非営利性が徹底された法人または共益的事業を行う法人です。法人税法上、「公益法人」と「非営利型法人」は公益法人等に分類され、これらの法人は収益事業から生じる所得についてのみ法人税が課されることになります。対して「非営利型法人」に該当しなかった場合は、法人税法上「普通法人」に分類され、株式会社と同じ課税を受けることになります。
これに対応する形で「目的信託」も「非営利型」に分類される信託と分類されない信託が存在しますが、法律上は目的信託を当該基準で分類しません。よって目的信託なら一律に23,2%の法人税率が課せられるように設計されているのです。この点でも目的信託は課税上不利に扱われていることが分かります。

このように目的信託を課税上不利に扱う理由として、「目的信託が脱税あるいは租税回避に利用されるおそれがあるから」と説明されています。
(c) 法人を委託者とする一定の信託
法人課税信託に分類される信託のひとつに、(c)の法人を委託者とする一定の信託があります。
この(c)の信託が法人課税信託に分類される理由は、当該信託に法人課税を行うことにより法人税回避を防止するためです。
そして、この(c)の信託はさらに、(あ)法人が事業の重要な部分を信託し、かつ当該法人の株主を受益者とするもの、(い)存続期間が20年を超える自己信託等、(う)収益の分配割合の変更が可能である自己信託等、の3つに分類されます。
つまりこれら3つの信託は、法人税回避が行われる恐れがあるため、法人課税信託に分類して法人税回避を防止しているということです。
✔(あ)法人が事業の重要な部分を信託し、かつ当該法人の株主を受益者とするもの
たとえば、A社がA社の重要な事業部門であるα部門を信託し、信託財産であるα部門から生じる利益をA社の株主が受益者として受ける場合、α部門の利益に対する法人税課税が抜け落ちてしまうことになります。
つまり、α部門がA社内に存在するなら、α部門から生じた利益はA社に帰属し、法人税課税を受けた後、課税済の利益がA社株主に分配され、A社株主に配当課税がなされます。このようにα部門の利益には二段階課税がなされることになります。
しかし、α部門を信託した場合、信託における原則的な課税方法は受益者課税なので、信託財産であるα部門から生じた利益を享受した受益者であるA社株主に課税されることになります。しかしこの課税方法によると、α部門から生じた利益への法人税課税が抜け落ちてしまっています。そこでこのような信託を利用した法人税回避を防止するために、このような信託を法人課税信託に分類し、α部門の利益に対して法人税課税を行うのです。
ここで上記の例の法律関係を確認します。
まず、上記の信託がなされた場合に適正な課税を行うとは「α部門の信託によって抜け落ちてしまったα部門の利益に対する法人税課税を適切に行うこと」です。
それを実現するには、当該信託を法人課税信託に分類し、信託されたα部門から生じた利益に対してA社と同率の法人税率による課税を行う必要があります。
α部門の信託は法人課税信託となるため、この信託設定は4条の3第9号により受託法人(α部門の信託を受け入れた法人)に対する現物出資とみなされます。そして当該現物出資が適格現物出資(2条12号の14)となるためにはA社が出資の対価として受託法人の受益権(株式とみなされる)を受け取る必要があります。しかし信託に係る受益権は受託法人からA社に移り、そしてA社からA社株主に移転したとは考えず、A社株主の下で受益権が生じたと考えます。よってA社はα部門への出資に対して受益権(株式とみなされる)は受け取っておらず、よって当該現物出資は非適格現物出資となります。
非適格現物出資になる以上、A社がα部門を信託する場合、α部門に属する資産の含み益が実現し、当該含み益に課税されると思われます。
なお、本事例の信託がなされた場合、A社においてα部門という財産的価値が抜け落ち、これに対してA社株主はα部門から生じる利益を受けることのできる受益権という財産的価値を獲得するので、これはA社からA社株主に対する分配とみなされ、A社株主は配当課税を受けると思われます。
✔(い)存続期間が20年を超える自己信託等
「自己信託」とは、委託者=受託者となるような信託のことです。つまり委託者が自分自身に信託をすることです。
この「自己信託」は平成18年度の信託法改正により新しく認められた信託の形です。
平成18年度信託法改正前において、収益を生むことのできる資産を利用した資金調達方法として、特定目的会社や特定目的信託がありました(事業体に対する3つの課税方法(法人課税、パス・スルー課税、分配利益損金算入型)参照)。
この種の資金調達方法の幅を広げようという意味合いで導入されたのが自己信託の制度です。
自己信託が行われた場合も、(あ)と同様に、自己信託された財産に係る利益に対する法人税課税が抜け落ちるという問題が生じます。そしてその期間が長いと、例え信託規模が小さくても、長期間法人税課税が抜け落ちるという状態が続いてしまいます。そこでこれを是正するために、(い)存続期間が20年を超える自己信託等については法人課税信託に分類して法人課税を行うことでこの問題を防止しようとしたと思われます。
✔(う)収益の分配割合の変更が可能である自己信託等
たとえばB社の事業部門βを信託し、当該信託財産であるβ部門から生じる利益を受ける者として甲社と乙社が受益権者となりました。そして甲社と乙社に対する信託利益の分配割合は自由に変更可能でした。
そうすると、たとえばβ部門から利益100が生じ、甲社には損失100、乙社には利益100が生じていた場合、利益の分配割合を「甲:乙=100%:0%」として信託利益の全てを甲社に振り分けたなら、甲社は損失100と信託利益100を相殺して課税所得をゼロにすることができます。
もしも信託を行わなければ、β部門の利益100はB社に帰属します。しかしβ部門を信託しているため、β部門の利益100が受益者である甲社に帰属するのです。
つまりこれは、「B社の利益100を甲社に付け替えて法人税を回避している」ことになります。そこで、(う)の信託を法人課税信託に分類し、利益の付け替えによる法人税回避を防止しているのです。
ただし、ここで個人的な疑問が残ります。それは当該信託利益100につき法人課税を行うことでβ部門の利益に対する法人税課税は確保できますが、この課税後の利益を自由に甲社または乙社に付け替えることができるなら、そのような行為は租税回避行為に利用されるのではないか?ということです。たとえば、課税後の利益が70で、甲社に100の利益、乙社に70の損失が生じている場合、利益の分配割合を「甲:乙=0%:100%」として、70の利益を乙社に付けることで、意図的に乙社の法人税回避ができてしまうのでは?ということです。

