「スクイーズアウト」とは、日本語にすれば「少数株主の締め出し」です。
ある親法人が子法人の少数株主を締め出して完全子法人にしたいと思ったときに行われるのが「スクイーズアウト」です。
今回はこの「スクイーズアウト」とこれに係る税制である「スクイーズアウト税制」について説明します。
スクイーズアウトとは
繰り返しになりますが、「スクイーズアウト」とは「少数株主の締め出し」のことです。
たとえばP社がS社の発行済株式の80%を保有していた場合に、P社がS社を完全子会社にしたいと考えたとき、P社とS社株主の間で株式交換を行い、P社はS社の少数株主からS社株式を取得し、その対価として金銭等を交付すると少数株主を締め出すことができます。
株式交換後、S社の少数株主は締め出され、S社はP社の100%子会社となり、目的が達成されることになります。

5つのスクイーズアウト(少数株主の締め出し方法)
上記の例では、「株式交換」を用いて少数株主の締め出し(スクイーズアウト)を行いました。
少数株主の締め出し(スクイーズアウト)には、「株式交換」以外に「吸収合併」、「全部取得条項付種類株式の端数処理」、「株式併合の端数処理」及び「株式売渡請求」を用いることができます。
「吸収合併」による少数株主の締め出しとは、たとえば親会社P社が子会社S社を吸収合併して、その対価として子会社S社の少数株主に金銭等を交付するというものです。
「全部取得条項付種類株式の端数処理」、「株式併合の端数処理」による少数株主の締め出しとは、たとえば「子会社S社株式100株を1株に併合する」ことで、100株未満しかS社株式を保有しない少数株主には併合後のS社株式を交付することができないことを理由に、金銭等を交付して締め出すというものです。
「株式売渡請求」による少数株主の締め出しとは、たとえば親会社P社が子会社S社の株式を90%以上保有する場合、親会社P社はS社の少数株主に対して、S社株式を売り渡すように請求できる権利を取得するので、当該売渡請求権を行使することで少数株主を締め出すというものです(会社法179条1項)。
平成29年度改正前のスクイーズアウト(5つ)に対する課税
上記のようにスクイーズアウト(少数株主の締め出し方法)として、「株式交換」、「吸収合併」、「全部取得条項付種類株式の端数処理」、「株式併合の端数処理」、「株式売渡請求」の5つがあります。
平成29年度改正前は、「株式交換」と「吸収合併」は法人税法上の組織再編成であり、「全部取得条項付種類株式の端数処理」、「株式併合の端数処理」、「株式売渡請求」の3つは法人税法上の組織再編成に該当していませんでした。
よってスクイーズアウトとして実行された「株式交換」や「吸収合併」が「適格」と判定されれば、課税繰延が認められることになります。
「株式交換」や「吸収合併」の対価として組織再編成を行う法人の株式以外が交付された場合、「非適格資産の交付」としてその時点で当該組織再編成は非適格となるのが原則です。しかし、株主の買取請求(会社法785条・797条)に基づいて金銭等を交付する場合は「非適格資産の交付」に当たりません(2条第12号の17)。
たとえば親会社P社が子会社S社の少数株主を株式交換を使って締め出そうとするときに、少数株主がS社株式の買取請求を行ない、それに基づいてP社が少数株主からS社株式を買い取り、対価として金銭等を交付する場合は「非適格資産の交付」には当たらないということです。
しかし、現実には「買取請求を行使しない少数株主(お金を払っても出て行ってくれない株主)」が存在し、このような少数株主を締め出すために金銭等を交付する場合、当該金銭等の交付は「株主の買取請求に基づいて行う金銭等の交付」に該当しないため、「非適格資産の交付」に該当し、当該組織再編成(株式交換や吸収合併)は非適格となってその時点で課税されます。
つまり平成29年度以前は、「株式交換」や「吸収合併」という手法を使って少数株主の締め出しを行う場合は「非適格」となってしまうのが実情であり、少数株主締め出し時に課税されるという状況でした。
そして「全部取得条項付種類株式の端数処理」、「株式併合の端数処理」、「株式売渡請求」は法人税法上の組織再編成ではないため、当該行為を行ったときは、通常の法人税が適用されて当該行為時に課税されることになります。
まとめると、平成29年度改正前に少数株主の締め出しを行うために、上記の5つのいずれの手法を採用しても、少数株主の締め出しを行った時点で課税されるという状況にあったということです。
平成29年度改正後のスクイーズアウト(5つ)に対する課税
少数株主の締め出し(スクイーズアウト)は、完全支配関係を構築し、迅速な意思決定や円滑な組織再編を実現することで、企業がより効率的に事業を展開できるようにするために行われます。
よって少数株主の締め出し(スクイーズアウト)に課税することは、このような企業の迅速な行動を租税が阻害することに他なりません。
そこで平成29年度において、このようなスクイーズアウトに対する課税を回避できるようにする税制改正が大きく分けて2つ行われました。
ひとつが「株式交換等および吸収合併における対価要件の緩和」、もうひとつが「『株式交換等』という概念の創設」です。
✔株式交換等および吸収合併における対価要件の緩和
上記で説明したとおり、平成29年度改正前における株式交換や吸収合併を用いた少数株主の締め出しは、「買取請求を行使しない少数株主(お金を払っても出て行ってくれない株主)」が存在する限り「適格」にはなり得ず、当該株式交換や吸収合併時に課税されていました。
そこで平成29年度改正により、株式交換等および吸収合併の対価に関する適格要件について、「株式交換等完全親会社が株式交換等完全子会社の発行済株式の2/3以上を有する場合」、「合併法人が被合併法人の発行済株式の2/3以上を有する場合」は、その他の株主(少数株主)に対して交付する対価を除外して、当該適格要件を判定することになりました。
すなわち、親会社P社が子会社S社の株式を2/3以上保有していれば、少数株主への対価として金銭を使用して締め出しを行っても、対価に関する適格要件に抵触しないので非適格となることはなくなりました。
この改正により、少数株主の締め出しを目的とした株式交換等や吸収合併が「適格」となり得るため、租税が企業の機動的な組織の再編を阻害しているという弊害のひとつを取り除くことができたと言えます。
✔「株式交換等」という概念の創設
少数株主の締め出しの手法として「株式交換」と「吸収合併」以外に、「全部取得条項付種類株式の端数処理」、「株式併合の端数処理」、「株式売渡請求」の3つがあります。
平成29年度改正前はこれら3つは法人税法上の組織再編成に該当しないため、「適格」とはなり得ず、これらの行為がなされた時点で通常の法人税が適用されて課税されていました。
しかし、平成29年度改正において「株式交換等」という概念を創設し、この「等」の中に「全部取得条項付種類株式の端数処理」、「株式併合の端数処理」、「株式売渡請求」の3つを含ませることにしました。
その結果、平成29年度改正後は「全部取得条項付種類株式の端数処理」、「株式併合の端数処理」、「株式売渡請求」の3つについても「適格」か「非適格」の判定が行われることになり、「適格」と判定されれば、当該行為を行った時点における課税は繰延べられることになります。
なお、「全部取得条項付種類株式の端数処理」、「株式併合の端数処理」、「株式売渡請求」の3つについての「適格要件」はこれまでの株式交換と同様であり、かつ前述したように子会社株式のうち2/3以上の保有がある場合は対価要件が緩和されることになります(2条12号の17)。
平成29年度改正において「株式交換等」という概念を創設し、この「等」の中に「全部取得条項付種類株式の端数処理」、「株式併合の端数処理」、「株式売渡請求」の3つを含ませることで、改正の前後で以下のような課税上の変化が生じることになりました。
「全部取得条項付種類株式の端数処理」「株式併合の端数処理」「株式売渡請求」の課税上の変化について
平成29年度改正前
法人税法上の組織再編成に該当しないため、「適格」にはなり得ず、当該行為時に課税される。
平成29年度改正後
「株式交換等」の「等」の中に含まれることになり、適格要件を満たせば、課税は繰延べられる。しかし非適格となれば、当該行為時に課税されるとともに、「非適格株式交換等とされた場合の子会社の資産に対する時価評価課税」が適用される(組織再編成税制④(組織再編成の課税上の効果)参照)。

スクイーズアウトにより金銭交付を受ける少数株主への課税について
少数株主の締め出しの方法として「株式交換」、「吸収合併」、「全部取得条項付種類株式の端数処理」、「株式併合の端数処理」、「株式売渡請求」の5つがあります。
これらの手法を使って少数株主を締め出す場合、少数株主に対して金銭交付を行うことになります。それでは当該金銭交付を受けた少数株主はどのような課税を受けるのかというのがここの話です。
この5つのスクイーズアウトのうち、「吸収合併」により少数株主に金銭交付を行う行為は「株主の地位に基づいて行われる被合併法人から被合併法人株主に対する金銭交付」であるので原則「分配」にあたります。
これに対してスクイーズアウトとして行われた「株式交換」又は「株式売渡請求」による金銭交付は、「少数株主が保有する子会社株式を親会社に交付する対価として交付されるもの」であり、株主としての地位に基づく分配ではないため、「分配」には該当しません。
また、「全部取得条項付種類株式の端数処理」又は「株式併合の端数処理」により少数株主に金銭が交付される場合、その金銭は「1株未満の端数株式の処理に伴って交付されるもの」であり、株主としての地位に基づく分配ではない(株主ではない者に対する金銭交付である)ため、「分配」には該当しません。
つまり、少数株主締め出しのために少数株主に金銭を交付する行為は「吸収合併」の場合は原則「分配」にあたりますが、それ以外(「株式交換」、「全部取得条項付種類株式の端数処理」、「株式併合の端数処理」、「株式売渡請求」)の場合は「分配」にはあたりません。
これをもとに少数株主に対する課税を考えます。
まず「吸収合併」の場合で、当該合併が「適格合併」であるなら、少数株主に対する金銭交付は「分配」に該当しません(組織再編成税制④(組織再編成の課税上の効果)参照)。よってみなし配当課税はありません。一方で当該吸収合併が「非適格合併」なら、少数株主に対する金銭交付は「分配」に該当するためみなし配当課税がなされます(24条1項1号、所得税法25条1項1号)。
また「株式交換」、「全部取得条項付種類株式の端数処理」、「株式併合の端数処理」、「株式売渡請求」の場合の少数株主に対する金銭交付は「分配」に該当しないため、みなし配当課税はありません(24条1項、所得税法25条1項、法人税法施行令23条3項9号・10号、所得税法施行令61条1項9号・10号)。
そして「株式交換」、「吸収合併」、「全部取得条項付種類株式の端数処理」、「株式併合の端数処理」、「株式売渡請求」のいずれの場合も、「少数株主は自己が保有する株式を譲渡して(または失って)、その対価として金銭交付を受けている」ため、少数株主が保有していた株式のキャピタルゲイン・ロスに対する課税が行われます(61条の2第1項・9項、所得税法57条の4第1項、租税特別措置法37条の10第1項・3項1号・37条の11第1項・3項等)。
スピンオフ税制・スクイーズアウト税制以外の平成29年度組織再編税制の改正
平成29年度改正では、スピンオフ税制およびスクイーズアウト税制以外にも組織再編税制の改正が行われました。
当該改正について以下で説明します。
✔企業グループ内の分割型分割に係る支配要件の緩和
平成29年度改正前は、分割前に分割法人と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係があるケースは、分割後に「分割法人と分割承継法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続すること」が適格要件として定められていました。
しかし改正後は、分割後に「当該同一の者と分割承継法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続すること」で足りることになりました。
つまり、分割後は「同一の者と分割法人との間の完全支配関係が要求されないことになったのです(法人税法施行令4条の3第6項2号)。
上記は完全支配関係(100%株式保有関係)がある場合ですが、支配関係(50%超100%未満の株式保有関係)がある場合も同様に、分割後に「当該同一の者と分割承継法人との間に当該同一の者による支配関係が継続すること」で適格要件を満たすことになりました(法人税法施行令4条の3第7項2号)。
このような改正が行われた結果、たとえば分割法人A社が保有するある資産等を他者に譲渡したいとなった場合、当該資産等を直接譲渡するだけでなく、当該譲渡したい資産等以外を分割承継法人B社に分割型分割を利用して移転し、譲渡したい資産等を分割法人A社に残した状態でA社株を譲渡するという方法で資産等を譲渡することが可能になりました。
つまり、資産等を他者に譲渡したいとなった場合、「資産等を直接他者に譲渡する方法」と「株式を他者に譲渡することで資産等を他者に譲渡する方法」のいずれかを選択することができるようになったのです。
株式を譲渡する場合は消費税がかからないというメリットがあります。反対に資産等を直接譲渡する場合は減価償却の再計算やのれんの計上などにより節税効果が期待できます。
その他税金以外の面でも様々な違いがあると思われますが、当該改正により資産等の譲渡を検討している企業はその選択肢が広がったと言えます。
✔共同事業再編成が適格となるための株式継続保有要件の改正
株式保有関係が50%以下の法人同士が共同で事業を行うための組織再編成について、適格と認められるための要件のひとつに「株式継続保有要件」があります。
平成29年度改正前の株式継続保有要件(共同で事業を行うための合併、分割型分割、株式交換、株式移転に係る適格要件)の内容は、①株主数が50人未満の場合に限り、②交付を受けた合併法人等の株式の全部を継続して保有することが見込まれている株主の有する被合併法人等の株式の数が発行済株式の80%以上でなければならない、というものでした。
よって被合併法人等の株主数が50人以上であれば、当該株式継続要件を満たす必要はありませんでした。
平成29年度改正では上記の要件を変更し、株主数が50人以上かどうかにかかわらず、合併等により交付される合併法人の株式等のうち支配株主に交付されるもの(対価株式)の全部が支配株主により継続して保有されることが見込まれていること、になりました(法人税法施行令4条の3第4項5号・8項6号イ・20項5号・24項5号)。
したがって被合併法人等の発行済株式の50%超を保有する支配株主がいない場合は、株式継続保有要件を満たす必要はないことになります。

