前回の「信託の概要」では、信託に関する全般的な話をしました。
今回は、法人税法の視点から分類した5つの信託(①受益者等課税信託、②集団投資信託、③法人課税信託、④退職年金等信託、⑤特定公益信託等)のうち、①と②について解説します。
①受益者等課税信託
信託に係る原則的な課税方法は「受益者等に対する課税」です。
つまり、信託財産から生じる利益に対しての原則的な課税方法が受益者等に対する課税ということです。このように受益者等に課税される信託のことを「①受益者等課税信託」と言います。
✔受益者等課税信託に係る課税の考え方
信託財産の所有権は、信託設定時に委託者から受託者に移転します。よって信託財産から生じた利益に対する課税は、信託財産の所有者である受託者に課すのが正しいように見えます。しかし、信託財産から生じる利益を受ける権利を有するのは受益者です(信託法2条6項・7項・同8条)。
そこで租税法では、受益者としての権利を有する者が信託財産に属する資産および負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰属する収益および費用は、当該受益者の収益および費用とみなします(12条1項、所得税法13条1項)。そして受託者に帰属した利益(収益-費用)に対して課税するのです。
✔受益者等課税信託に係る課税方法は、民法上の組合に対する課税方法であるパス・スルー課税と酷使している
受益者等課税信託に係る課税方法は、民法上の組合に対する課税方法であるパス・スルー課税と酷使しています。
民法上の組合本体の財産は、民法668条により総組合員の共有(合有)となり、その結果、民法上の組合本体の収益・費用は組合本体をパス・スルーして組合員に帰属すると考えられます。つまり、民法上の組合は組合本体ではなく組合員に課税されます(「事業体に対する3つの課税方法(法人課税、パス・スルー課税、分配利益損金算入型」参照)。
このように受益者等課税信託では「収益・費用が受託者をパス・スルーして受益者等に帰属して課税」され、民法上の組合では「収益・費用が組合本体をパス・スルーして組合員に帰属して課税」されるため、両者の課税方法は酷使していると言えます。

ところで収益・費用の帰属とは別に、「受託者から受益者に対する利益の分配」や「組合本体から組合員に対して行われる利益の分配」をどのように取扱えばいいのでしょうか。
これについては、利益の分配を受ける側で所得として認識しません。なぜなら分配利益は、分配以前にその利益の元となる収益・費用がパス・スルーして受託者や組合員に帰属して課税されているので、分配利益を所得として認識して課税すると、課税済の利益にもう一度課税することになり、二重課税となるからです。
✔受益者等の「等」について
受益者等課税信託において、課税されるのは受益者のみならず、「等」も含みます。この「等」とは「信託の変更権限を現に有し、かつ信託財産の給付を受けることとされている者」のことであり、租税法上受益者とみなされます(12条2項、所得税法13条2項)。
ここに「信託財産の給付を受けることとされている者」とは、たとえば「信託終了時に信託財産を受け取ることができる者」などのことを言います(国税庁HP参照)。
➁集団投資信託
集団投資信託とは、集団投資スキームを信託の仕組みを利用して行おうとするものです。
集団投資スキームとは、多くの者から資金を集め、これを事業や有価証券等に投資し、その利益を出資者等に分配する仕組みです。このような行為を信託の型に当てはめて行うものが集団投資信託です。
✔集団投資信託の3つの類型
法人税法の視点から「集団投資信託」に分類される信託の型が3つあります。それが(a)合同運用信託、(b)証券投資信託等、(c)特定受益証券発行信託の3つです(2条29号)。
(a)合同運用信託
合同運用信託とは、複数の者から資金を集めて、これを株式や債券、貸付などにより運用することで得られた利益を投資家に分配するものです。イメージとしては(b)証券投資信託等よりもシンプルで安全な運用方法となります。そして合同運用信託の場合の委託者、受託者、受益者は以下の者となります。
委託者 投資家
受託者 信託銀行など
受益者 投資家
つまり、委託者である投資家が受託者である信託銀行などに資金を提供し、集まった資金を信託銀行などが運用して、それにより得られた利益を受益者である投資家に分配するのです。
(b)証券投資信託等
複数の者から資金を集めて、当該資金を株式や債券などに投資して、得られた運用益を投資家に分配するものであり、合同運用信託と同じようなことを行いますが、こちらはもっと精緻に投資を行います。
仕組みは、資産運用会社(代表的な会社としてブラックロックなど)が投資信託を開発し、この投資信託を証券会社などの店頭で販売して投資家から資金を集め、集めた資金を信託銀行に移し、信託銀行は資産運用会社の指示に従って当該資金を運用して利益を得、その利益を投資家に分配する、というものです。
そして、この場合の委託者、受託者、受益者は以下の者となります。
委託者 資産運用会社
受託者 信託銀行
受益者 投資家
投資信託の販売会社である証券会社などが投資信託を販売することで投資家から資金を集め、集めた資金は受託者である信託銀行に提供し、委託者である資産運用会社の指示通りに当該資金を運用し、得られた利益を受益者である投資家に分配する、ということです。

(c)特定受益証券発行信託
複数の者から資金を集め、当該資金を運用してその運用益を投資家に分配しますが、当該運用益を得られる権利を証券に表章して譲渡しやすくしたものです。
✔課税方法
信託財産から利益が生じた場合、当該利益が生じた時点で、当該利益を受益者に帰属させて受益者に課するのが信託課税の原則です(①受益者等課税信託)。
ところが集団投資信託では、運用益が生じた時点で受益者にも受託者にも課税せず、当該利益が受益者に分配された時点で受益者に課税します(12条1項但書、所得税法13条1項但書、23条1項2号、所得税法23条1項・24条1項等)。つまり、利益に対する課税が利益獲得時から利益分配時まで繰延べられているのです。この課税繰延は制度が認めた優遇措置です。
このような課税繰延という優遇を認めているのは、投資の促進を図るという政策的配慮からであると思われます。
そして「利益分配時に受益者に課税する」という➁の集団投資信託は、「利益獲得時に受益者に課税する」という①の受益者等課税信託と比較すると課税のタイミングが後ろにずれていますが、①、②両者ともに受託者をパス・スルーして受益者に課税するため、この点で共通しています。

✔合同運用信託と平成19年度信託税制の改正
合同運用信託と証券投資信託等は、平成19年度信託税制改正前から上記の課税繰延が認められていました。
しかし平成19年度信託税制の改正により、合同運用信託のうち委託者が実質的に多数でないものは②の集団投資信託から除外されることになりました(2条26号)。
たとえば会社経営において、親密な関係にある少人数だけで合同運用信託を行い、これにつき集団投資信託として分配時の受益者課税を認めると、当該運用益の分配額や分配時期を投資家が操作できるので、租税回避ができてしまいます。そこでこのような少人数の合同運用信託は、②の集団投資信託から除外したのです。
➁の集団投資信託から除外された合同運用信託は、原則に立ち返り、①の受益者等課税信託に分類され、運用益が生じた時点で受益者課税がなされることになります。
✔(c)特定受益証券発行信託
受益証券発行信託は平成18年度信託法の改正により、新しく認められることになった信託の型です。
受益証券発行信託は、過度の課税繰延が行われる危険があるため、一定の要件を満たしたものだけが(c)特定受益証券発行信託となり、②の集団投資信託に分類され課税繰延が認められます。しかし要件を満たさないものは「受益証券発行信託」として➂法人課税信託に分類されることにより法人課税を受けることになります(2条29号の2イ)。
受益証券発行信託が(c)特定受益証券発行信託と認められるためには、「信託事務の実施についての税務署長の承認の義務化、未分配利益の額や利益留保割合の上限の設定、各計算期間は1年を超えてはならないこと、受益者の存しない信託に該当してはならない」という要件を満たす必要があります(2条29号ハ)。

