組織再編税制⑧(株式交付税制)

株式交付制度は令和元年12月4日に可決成立した会社法上の制度であり、令和3年3月1日から施行されています。

これに伴い、当該株式交付制度に係る「株式交付税制」が租税特別措置法において規定されました。

今回は会社法上に規定された「株式交付制度」とそれに係る税制である「株式交付税制」について解説します。

株式交付制度

会社法に規定されている「株式交付制度」は令和元年に成立し、令和3年から施行されている比較的新しい制度です。

株式交付制度の概要は以下のとおりです。

・株式会社(国内の株式会社に限られる)が他の株式会社(国内の株式会社に限られる)で子会社となっていないものを子会社(議決権株式の50%超を保有される会社)とするために用いられる制度です。よって既に子会社となっている会社には適用されません(会社法2条32号の2)。

・株式交付では、子会社となる会社の株主全員が株式を譲り渡す必要はなく、一部の株主だけが株式を譲り渡すこともできます(会社法施行規則3条3項1号、4条の2)。

・親会社となる株式会社が子会社となる株式会社の株主に対して譲り受ける株式の対価として交付するものは、親会社となる株式会社の株式が含まれてなければなりませんが、その他に金銭等が含まれていても構いません(会社法774条の3第1項)。

以下具体例を用いて説明します。

たとえばA社がT社を子会社とするために、T社の株主である甲と乙からT社株式を取得し、その対価としてA社株式等を交付しました。

株式交付により、T社株主甲・乙・丙のうち、甲と乙がA社株主となります。なお、株式交付はある会社を子会社とするために行われるものなので、株式交換後はT社はA社の子会社となります。

そして、株式交付後のA社のことを「株式交付親会社」、T社のことを「株式交付子会社」と言います。

株式交付税制

株式交付税制とは

「株式交付」とはたとえば、A社がT社を子会社とするために、T社株主である甲と乙からT社株式を譲受け、その対価としてA社株等を交付することです。

この場合、T社株主である甲と乙は「T社株式を譲渡し、対価としてA社株等を取得」しているので、甲と乙は原則として、T社株の譲渡損益(取得したA社株等の時価ーT社株の取得価額)に課税されることになります。

しかし一定の要件を満たすと、当該譲渡損益に対する課税の繰延を認める制度(特例)が「株式交付税制」です(租税特別措置法37条の13第1項、66条の2第1項)。

株式交付において、A社はT社株主である甲にA社株等を交付していますが、当該交付した資産(A社株+金銭等)の価額のうち、A社株式の価額の割合(株式交付割合)が80%以上なら、「株式交付税制」の適用があります。

なお、当該割合が80%以上かどうかの判定は、株主ごとに行われます。よって例えば、甲について当該割合が80%以上なら、甲については株式交付税制が適用され、甲のT社株に係る譲渡損益の課税は繰延べられますが、乙について当該割合が80%未満なら、乙については株式交付税制は適用されず、乙のT社株に係る譲渡損益への課税がなされることになります。

以下の3つのパターンに分けて説明します。

➀ A社がT社株主(甲)にT社株の対価として交付したのがA社株式のみである場合
➁ A社がT社株主(甲)にT社株の対価として交付したのがA社株+
金銭等であった場合(当該交付した資産の価額のうち、A社株式の価額の割合が80%以上の場合)
➂ A社がT社株主(甲)にT社株の対価として交付したのがA社株+金銭等であった場合(当該交付した資産の価額のうち、A社株式の価額の割合が80%未満の場合)

➀A社がT社株主(甲)にT社株の対価として交付したのがA社株式のみである場合

A社がT社株主(甲)にT社株の対価として交付したのがA社株式のみである場合、当該交付した資産の価額のうち、A社株式の価額の割合が100%なので、株式交付税制が適用され、T社株の譲渡損益の課税は繰延べられます。

➁A社がT社株主(甲)にT社株の対価として交付したのがA社株+金銭等であった場合(当該交付した資産の価額のうち、A社株式の価額の割合が80%以上の場合)

A社がT社株主(甲)にT社株の対価として交付したのがA社株+金銭等であった場合(当該交付した資産の価額のうち、A社株式の価額の割合が80%以上の場合)、株式交付税制が適用され、A社株に対応するT社株の譲渡損益は繰延べられますが、金銭等に対応するT社株の譲渡損益は課税されます。

➂A社がT社株主(甲)にT社株の対価として交付したのがA社株+金銭等であった場合(当該交付した資産の価額のうち、A社株式の価額の割合が80%未満の場合)

A社がT社株主(甲)にT社株の対価として交付したのがA社株+金銭等であった場合(当該交付した資産の価額のうち、A社株式の価額の割合が80%未満の場合)、株式交付税制は適用されず、T社株の譲渡損益は課税されます。

株式交付親会社株式の取得価額

株式交付親会社株式の取得価額、つまり上図で言えば、甲が取得したA社株式の取得価額は、①の場合は甲が保有する「株式交付子会社株式(T社株)の取得価額」となり、②の場合は甲が保有する「株式交付子会社株式(T社株)の取得価額×株式交付割合」となり、➂の場合は「株式交付親会社(A社)から株式交付子会社(甲)に交付されたA社株の時価」となります。

株式交付と「営業譲渡、合併、株式交換」の税制上の違い

法人がM&Aを行う際には、できるだけ税制上不利にならない方法を選択したいと考えるはずです。そのため、M&Aの手法を選択する際には、税制上のメリット・デメリットが重要な判断材料の一つとなります。

そこで、M&Aのひとつである株式交付とそれ以外のM&Aである「営業譲渡、合併、株式交換」を税制面で比較したいと思います。

株式交付と営業譲渡の比較

株式交付の場合は、株式交付割合が80%以上なら、株式交付子会社の株主の株式交付子会社株式の譲渡損益への課税の繰延が認められます。

他方、営業譲渡は法人税法上の組織再編成に該当しないため、たとえ営業譲渡を行った対価として株式のみが交付されたとしても、通常の法人税法が適用され、営業譲渡により譲渡された資産につき、譲渡損益課税を受けることになります。

よって、税制面で株式交付は営業譲渡より有利であると言えます。

株式交付と合併の比較

① 株式交付の場合、ある会社を子会社とするために、当該子会社としたい会社の株主から個別に株式交付を受けることができ、かつ個々の株主ごとに株式保有割合が80%以上なら、課税の繰延を受けることができます。

他方、合併の場合「100%支配関係、50%~100%未満の支配関係、50%以下の支配関係」で適格と認められるための要件の数が異なりますが、適格合併となって課税の繰延が認められるためのハードルは株式交付と比較して高いと言えます。

➁ 株式交付の場合、ある会社を子会社とするために、当該子会社としたい会社の株主から個別に株式交付を受けることができます。つまり、株式交付に応じたい株主は株式交付に応じることで株式を手放し、株式交付に応じたくない株主は株式交付を拒否することで株式の保有を継続できるという選択肢が与えられているのです。

他方、合併の場合は、被合併法人T社株主の保有するT社株は合併により全て消滅するため、合併に賛成の株主も反対の株主も関係なく、T社株の放棄が強制されます。

この点で合併は株式交付よりも柔軟性に欠けると言えます。

➂ 株式交付の場合、当該子会社としたい会社の株主は、株式交付に応じることで課税繰延の恩恵を受け、株式交付に応じないことで課税繰延の恩恵を放棄する、という選択肢が与えられています。

他方、合併の場合は、合併に反対する株主が存在し、その株主が株式の買取請求をしない結果、非適格合併となった場合、合併に賛成の株主も反対の株主も関係なく、譲渡損益課税を受けることになります。

つまり、株式交付の場合は課税繰延の恩恵を受けるか否について株主に選択権がありますが、合併に場合は課税繰延の恩恵を受けるか否かについて株主に選択権はありません。このことから、合併は株式交付に比べて柔軟性に欠けると言えます。

➃ 株式交付の場合、株式交付割合が80%未満で課税繰延の適用を受けることができなくても、そのことにより株式交付子会社の資産が時価評価されるということはありません。

これに対して合併の場合は、非適格となった場合、被合併法人の資産等につき時価評価課税を受けることになります。

株式交付と株式交換の比較

① 株式交付の場合、ある会社を子会社とするために、当該子会社としたい会社の株主から個別に株式交付を受けることができます。つまり、株式交付に応じたい株主は株式交付に応じることで株式を手放し、株式交付に応じたくない株主は株式交付を拒否することで株式の保有を継続できるという選択肢が与えられているのです。

他方、株式交換の場合は、株式交換完全子会社T社株主の保有するT社株は株式交換により全て株式交換完全親会社A社に移転するため、株式交換に賛成の株主も反対の株主も関係なく、T社株の放棄が強制されます。

この点で株式交換は株式交付よりも柔軟性に欠けると言えます。

➁ 株式交付の場合、当該子会社としたい会社の株主は、株式交付に応じることで課税繰延の恩恵を受け、株式交付に応じないことで課税繰延の恩恵を放棄する、という選択肢が与えられています。

他方、株式交換の場合は、株式交換に反対する株主が存在し、その株主が株式の買取請求をしない結果、非適格株式交換となった場合、株式交換に賛成の株主も反対の株主も関係なく、譲渡損益課税を受けることになります(ただし、非適格株式交換となった場合も完全親会社株式のみが交付されるときは、課税の繰延が認められます)。

つまり、株式交付の場合は課税繰延の恩恵を受けるか否について株主に選択権がありますが、株式交換に場合は課税繰延の恩恵を受けるか否かについて株主に選択権はありません。このことから、株式交換は株式交付に比べて柔軟性に欠けると言えます。

➂ 株式交付の場合、株式交付割合が80%未満で課税繰延の適用を受けることができなくても、そのことにより株式交付子会社の資産が時価評価されるということはありません。

これに対して株式交換の場合は非適格となったときに、株式交換完全子会社の資産等につき時価評価課税を受けることになります。これは未実現利益に対する課税であり、厳しい制度であると言えます(組織再編成税制④(組織再編成の課税上の効果)参照)。

株式交付と合併を組み合わせた租税回避の容認

株式保有関係が50%以下の法人同士が合併する場合、当該合併が「適格合併」と認められるためには7つの要件(主要資産等移転要件、従業者引継要件、事業継続要件、事業関連性要件、事業規模要件、特定役員引継要件、株式継続保有要件)を満たす必要があります。

しかし、この7つの要件を満たすのはハードルが高いです。

そこで株式保有関係が50%以下の法人同士が合併する場合、合併前に株式交付を行うことで株式保有関係50%超~100%未満の親子会社関係を構築します。そうすると株式保有関係が50%超~100%未満の法人同士が合併する場合、当該合併が「適格合併」と認められるためには3つの要件(主要資産等移転要件、従業者引継要件、事業継続要件)を満たせばいいことになります。

つまり株式交付を利用することで、適格合併のハードルを下げることができるのです。これは租税回避と言えるのかですが、株式交付によって形成されるのは100%ではなく50%超の親子会社関係にとどまるため、その後に適格合併を行う場合でも、「主要資産等移転要件、従業者引継要件、事業継続要件」の3つの要件を満たす必要があり、制度の濫用はこれらの要件によって一定程度抑制できるものと考えられています。

他方、株式交換を利用しても上記の株式交付と同じような租税回避を行うことが可能です。つまり、株式保有関係が100%未満の法人同士が適格合併を行なおうとする場合、いきなり適格合併を目指すのではなく、一旦非適格株式交換により株式保有関係を100%にした上で、適格合併を行なえば、無条件で適格合併を行うことが可能です。

つまり「非適格株式交換+適格合併」の順序をとれば、7つの要件どころか3つの要件を満たさずとも適格合併ができてしまうのです。このような租税回避行為を防ぐために、「非適格株式交換における株式交換完全子会社の資産の時価評価課税」が規定されているのです(組織再編成税制④(組織再編成の課税上の効果)参照)。

非適格株式交換を利用した租税回避は上記の株式交付を利用した租税回避と異なり、制度の乱用にあたるため、これを阻止する規定が設けられているということです。

また、少数株主を締め出したいと考えたとき、完全子会社としたい会社の株式の2/3以上を保有していない状態なら、一旦株式交付により完全子会社としたい会社の株式の2/3以上を取得し、その後で少数株主に金銭を交付して締め出しを行えば「適格」の判定には影響しないので、金銭交付を用いた適格による少数株主の締め出し(スクイーズアウト)が可能となります。

株式交付は税制面で営業譲渡・合併・株式交換よりも使い勝手がよい理由

上記のように、株式交付は税制面で営業譲渡・合併・株式交換よりも使い勝手がよい所があります。

これは株式交付税制が「株式対価M&Aを阻害しないことを目的とした政策措置」として、租税特別措置法において定められる規定であるからです。

つまり、政策目的を達成するために定められた時限立法という側面があるため、法人税法本法に定められた組織の再編に係る税制よりも緩やかであると考えられます。

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