グループ通算制度➁

グループ通算制度は、通算グループ内の法人の所得と損失を相殺(損益通算)できる制度です。例えば、通算グループ内のある法人で生じた損失を同じ通算グループ内の別の法人の所得から控除することで、通算グループ全体の課税所得を減らし、法人税の負担を軽減することができます。

この仕組みは、通算グループ全体の税負担を適正化する一方で、意図的に欠損金等を利用して租税回避を行う手段として悪用されるおそれもあります。そのため、グループ通算制度には、このような租税回避を防止するためのさまざまな規定が設けられています。

なお、欠損金等は、大きく分けると「通算グループへ入室する前に生じた欠損金等」と「通算グループへ入室した後に生じた欠損金等」の2つに分類されます。このうち、租税回避行為に悪用されやすいのが「通算グループへ入室する前に生じた欠損金等」です。

よって今回は、「通算グループへ入室する前に生じた欠損金等」を租税回避のためにいかに悪用させないか、というのが話のメインとなります。

ところでグループ通算制度の適用を受けるためには、親法人・子法人の全てが国税庁の承認を受けなければなりません(64条の9第1項)。このように国税庁の通算承認を受けてグループ通算制度の適用を受ける法人グループのことを、この記事では「通算グループ」と呼ぶことにします。

グループ通算制度を用いた租税回避行為とその防止策

グループ通算制度の仕組み

グループ通算制度においては、通算グループに帰属する法人は個別に申告を行います。同時に通算グループ内の法人の所得と損失を損益通算できる仕組みになっています。

このように「個別申告」と「通算グループ内の法人間での損益通算」という、一見すると両立し得ないと思える仕組みが両立し、機能しているのがグループ通算制度です。

グループ通算制度を用いた租税回避行為

グループ通算制度は、租税回避を防止するための規定がなければ、租税回避を行うための道具として利用できてしまいます。

たとえば、業績が好調で毎年多額の法人税を納める法人は、多額の繰越欠損金を抱える法人の全株式を取得して通算グループ内に引き入れ、自社の法人所得と当該法人の繰越欠損金を損益通算することで法人税の納税額を減らすことができます。

また、業績が好調で毎年多額の法人税を納める法人は、含み損のある資産を有する法人の全株式を取得して通算グループ内に引き入れ、当該含み損のある資産を売却することで損失を実現させ、法人所得と損益通算することで法人税の納税額を減らすことができます。

これらは一種の租税回避行為であるため、防止規定が必要となります。

租税回避を防止するための手法

上記のように、グループ通算制度を利用した租税回避として考えられるのが「通算グループ内に繰越欠損金を持ち込んで、同じ通算グループ内の他の法人の所得と損益通算をする」こと、そして「通算グループ内に含み損のある資産を持ち込んで、当該資産を売却して損失を実現し、同じ通算グループ内の他の法人の所得と損益通算する」ことです。

この2つの租税回避行為を防止するための手法は「通算グループ内に繰越欠損金を持ち込ませない」ことと「通算グループ内に含み損のある資産を持ち込ませない」ことです。

この点、「通算グループ内に繰越欠損金を持ち込ませない」ために、繰越欠損金の切捨てが行われ(57条6項)、「通算グループ内に含み損のある資産を持ち込ませない」ために、時価評価課税が行われます(64条の11第1項等)。

つまり、通算承認を受けた法人が通算グループに入室するときに、その法人が繰越欠損金と含み損のある資産を有している場合、当該欠損金の切捨てを行い、かつ当該法人が保有する資産につき時価評価課税を行うことで当該資産の含み損をゼロにして、その状態で通算グループ内に入室させるということです。

このようにすることで通算グループ内に入室する以前に保有していた欠損金や資産の含み損を通算グループ内に持ち込むことができなくなり、租税回避を防止することができるのです。

連結納税制度の廃止とグループ通算制度の創設

令和2年度において、連結納税制度が廃止され、その代わりにグループ通算制度が創設されました。

連結納税制度の問題点の一つとして、「連結納税制度と組織再編税制との整合性が図られていない結果、課税の中立性が損なわれていた」ということがありました。

すなわち、法人がなんらかの経済的行為を行なおうとしたときに、「組織再編税制よりも連結納税制度の適用を受けた方が税金的に得をするから、連結納税制度の適用を受けられるように行動しよう」となったり、反対に「連結納税制度よりも組織再編税制の適用を受けた方が税金的に得をするから、組織再編税制の適用を受けられるように行動しよう」となり、法人の行動が経済合理性ではなく税制によって左右されてしまうという問題点があったということです。

そこで当該連結納税制度の問題点を解消するために、グループ通算制度の創設にあたっては「グループ通算制度と組織再編税制の整合性」が重視されることになりました。

ところで、連結納税制度では連結親法人がグループ全体についての申告や修正を行う必要があり、事務負担が非常に大きいという課題がありました。これ対してグループ通算制度では各法人が個別に申告や修正を行う仕組みに改められたため、事務負担が大幅に軽減されました。その結果、グループ通算制度を利用するためのハードルは、連結納税制度よりも低くなったといえます。

しかし、これはあくまでも制度を利用するハードルが下がったという意味であり、租税回避を行うハードルが下がったという意味ではありません。

むしろ、グループ通算制度では連結納税制度の下で指摘されていた租税回避の余地を塞ぐための見直しが行われており、租税回避防止措置は強化されています。したがって、制度は利用しやすくなった一方で、租税回避は従来よりもしにくい制度へと改められたといえます。

組織再編税制とグループ通算制度の整合性

組織再編成における租税回避の懸念

前述のとおり、グループ通算制度には、「通算グループ内に繰越欠損金を持ち込み、同じ通算グループ内の他の法人の所得と損益通算をする」、「通算グループ内に含み損のある資産を持ち込み、当該資産を売却して損失を実現し、同じ通算グループ内の他の法人の所得と損益通算をする」という租税回避の懸念があります。

そして、組織再編成の場面でも同様の租税回避の懸念があります。例えば、「合併により合併法人が被合併法人の欠損金を引き継ぎ、合併法人の所得から控除する」、「合併法人が被合併法人から含み損を内包した資産を承継し、その後当該資産を売却して損失を実現し、合併法人の所得から控除する」といったケースです。

しかし組織再編税制は、すべての組織再編成にこのような租税回避の懸念が同等にあるとは考えていません。つまり、租税回避の懸念の低い組織再編成もあれば、租税回避の懸念の高い組織再編成もあると考えているということです。

そしてグループ通算制度にも同じことが言えます。つまりグループ通算制度は、通算グループへの入室行為のすべてにつき、租税回避の懸念が同等にあるとは考えていません。すなわち、租税回避の懸念の低い通算グループへの入室もあれば、租税回避の懸念の高い通算グループへの入室もあると考えているということです。

適格組織再編成と非適格組織再編成

組織再編税制では「適格組織再編成」という概念を設けています。組織再編成が「適格組織再編成」に該当する場合は「欠損金や資産の含み損を利用した租税回避の懸念が低い組織再編成」と判断し、当該欠損金の引継ぎや含み損を内包した資産の承継を認めます。

他方、組織再編成が「非適格組織再編成」に該当する場合は、「欠損金や資産の含み損を利用した租税回避の懸念が高い組織再編成」と判断し、欠損金の引継ぎは認められず、資産は時価評価されたうえで承継されるため、含み損を承継することはできません。

この話を組織再編成の1つである合併を例にすると以下のような感じです。

合併が「適格合併」なら「欠損金や資産の含み損を利用した租税回避の懸念が低い組織再編成」と判断し、合併法人は被合併法人の欠損金を引継ぎ、含み損を内包した資産を承継します。

反対に合併が「非適格合併」なら「欠損金や資産の含み損を利用した租税回避の懸念が高い組織再編成」と判断し、合併法人は被合併法人の欠損金を引継ぐことができず、資産は時価評価されたうえで承継されるため、含み損を承継することはできません。

組織再編税制とグループ通算制度の整合性

先ほど説明したとおり、グループ通算制度の創設にあたっては、組織再編税制との整合性が重視されました。

つまり、グループ通算制度においても組織再編税制における「適格」「非適格」と同じような分類をすることで、互いの整合性を図ろうとしているのです。

ところでグループ通算制度には「時価評価除外法人」という概念があります。その名のとおり「時価評価除外法人」とは「時価評価を行わなくてもよい法人」のことです。反対に「時価評価を行わなければならない法人」がいますが、ここでは便宜上「時価評価対象法人」と呼びます。

この「時価評価除外法人」や「時価評価対象法人」はどの場面で登場するのかというと、「通算承認を受けた法人が、通算グループに入室しようとする場面」で登場します。通算承認を受けた法人が通算グループに入室しようとするときに、当該法人は「時価評価除外法人」と「時価評価対象法人」のいずれかに分類されます。

「時価評価除外法人」に分類された場合は「その法人が有する欠損金や資産の含み損が、租税回避の手段として利用されるおそれが低い」と判断し、当該法人が有する欠損金や資産の含み損を通算グループ内に持ち込むことができます。

これに対して「時価評価対象法人」に分類された場合は「その法人が有する欠損金や資産の含み損が、租税回避の手段として利用されるおそれが高い」と判断し、当該法人が有する欠損金や資産の含み損を通算グループ内に持ち込むことができません。

そして、組織再編税制における「適格」はグループ通算制度における「時価評価除外法人」に対応し、組織再編税制における「非適格」はグループ通算制度における「時価評価対象法人」に対応するものと考えると、組織再編税制とグループ通算制度との整合性が理解しやすくなります。

先ほどの合併(組織再編成のひとつ)をもう一度確認します。

合併が「適格合併」なら「欠損金や資産の含み損を利用した租税回避の懸念が低い組織再編成」と判断し、合併法人は被合併法人の欠損金を引継ぎ、含み損を内包した資産を承継します。

これに対して合併が「非適格合併」なら「欠損金や資産の含み損を利用した租税回避の懸念が高い組織再編成」と判断し、合併法人は被合併法人の欠損金を引継ぐことができず、資産は時価評価されたうえで承継されるため、含み損を承継することはできません。

これに対応する形で「時価評価除外法人」と「時価評価対象法人」を整理すると以下のようになります。

通算グループに入室する法人が「時価評価除外法人」なら「その法人が有する欠損金や資産の含み損が、租税回避の手段として利用されるおそれが低い」と判断し、当該法人が有する欠損金や資産の含み損を通算グループ内に持ち込むことができます。

これに対して通算グループに入室する法人が「時価評価対象法人」なら「その法人が有する欠損金や資産の含み損が、租税回避の手段として利用されるおそれが高い」と判断し、当該法人が有する欠損金や資産の含み損を通算グループ内に持ち込むことができません(57条6項、64条の11第1項等)。

このように組織再編税制とグループ通算制度の整合性を図ることで、課税の中立性を確保しようとしているのです。

グループ通算制度開始時または加入時において「時価評価除外法人」と言えるための要件

通算グループに入室するまでの流れ

通算グループに入室し、グループ通算制度の適用を受けるまでの流れを整理すると、「①100%完全支配関係を構築する→➁国税庁長官から通算承認を受ける→➂通算グループに入室する前に「時価評価除外法人」または「時価評価対象法人」のいずれか分類され、欠損金や資産の含み損の持ち込みの有無が決まる→④通算グループに入室する」ということになります。

ところで「④通算グループに入室する」方法は2通りあります。ひとつは「グループ通算制度開始時に入室する方法」もうひとつは「グループ通算制度適用開始後、途中入室する方法」です。

そして「開始時に入室する場合」も「途中入室する場合」のいずれにおいても、➂入室前に「時価評価除外法人」または「時価評価対象法人」のいずれに分類されるかの判定が行われます。

具体的には「時価評価除外法人」になるための要件を定めて、その要件を満たせば「時価評価除外法人」となり、要件を満たさなければ「時価評価対象法人」となります。

そして通算グループの入室方法は「開始時に入室する方法」と「途中入室する方法」の2つがあるので、この2つの入室のタイミングでそれぞれ「時価評価除外法人」に該当するのか否かの要件を定めています。

時価評価対象法人と判定された場合

「通算グループ開始時に入室する場合」において、「時価評価除外法人」と判定されなかった場合は、「時価評価対象法人」となります。

この場合、通算承認を受ける内国法人が通算開始直前事業年度終了の時に有する時価評価資産の評価益の額または評価損の額は、その通算開始直前事業年度の所得の金額の計算上、益金の額または損金の額に算入するとされています(64条の11第1項)。これが、通算制度開始に伴う時価評価課税の内容です。

通算制度への途中入室についても、ほぼ同じ内容の規定があります(64条の12第1項)。

ちなみに、時価評価除外法人以外の法人(時価評価対象法人)から親法人は排除されていないため、子法人のみならず、親法人も時価評価対象法人になり得ます。

「時価評価除外法人」の要件

「グループ通算制度開始時に入室する場合」、「グループ通算制度適用開始後、途中入室する場合」のいずれの場合においても、「時価評価除外法人」となるための要件が定められています。

「通算制度開始時に入室する場合」に「時価評価除外法人」となるための要件が以下の2つです。

① いずれかの子法人との間に完全支配関係の継続が見込まれている親法人
➁ 親法人との間に完全支配関係の継続が見込まれている子法人

(64条の11第1項)

「通算制度適用開始後、途中入室する場合」に「時価評価除外法人」となるための要件が以下の4つです。

➂ 通算法人が通算親法人による完全支配関係がある法人を設立した場合におけるその法人
➃ 適格株式交換等により加入した株式交換等完全子法人
➄ 加入直前に支配関係がある法人で、一定の要件((ⅰ)通算親法人による完全支配関係が継続することが見込まれていること、(ⅱ)加入直前の従業者の総数のおおむね80%以上に相当する数の者がその法人の業務に引き続き従事することが見込まれていること、(ⅲ)加入前に行う主要な事業が引き続き行われることが見込めれていることのすべて)に該当する法人
➅ 通算親法人または他の通算法人と共同で事業を行う場合に該当する法人

(64条の12第1項)

①から⑥のいずれかの要件を満たした法人は「時価評価除外法人」と判定され、自社の欠損金や資産の含み損を通算グループへ持ち込むことができます。これは、そのような欠損金や含み損を通算グループへ持ち込んでも、租税回避の手段として利用されるおそれが低いと判断されているためです。

したがって、上記①~⑥の要件は、そのような法人を見極めるための客観的な基準であるといえます。

①と➁は「完全支配関係の継続が見込まれるなら、通算グループへの入室は欠損金や資産の含み損を利用した租税回避目的ではないと客観的に考えられる」ということです。

➂は通算グループ内で完全子法人を設立した場合は、当該法人には「加入前」の資産や欠損金が存在しないので、「持込み」という問題がそもそも生じません。

④から⑥は組織再編税制と絡むところであるので、説明は省略します。

ちなみに⑤と⑥の要件は、組織再編税制において定められている適格要件とほぼ同様の要件となっています。これは、組織再編税制とグループ通算制度との整合性を図ることで、制度間の違いによって法人の行動が左右されることを防ぎ、課税の中立性を確保しようとしているためであると思われます。

時価評価除外法人通算グループ入室後における入室前の欠損金や資産の含み損の利用制限等

時価評価除外法人の通算グループ入室後における入室前の欠損金や資産の含み損の原則的な利用方法

時価評価対象法人と判定された場合は、当該法人の欠損金は切り捨てられ、また、資産は時価評価されるため、欠損金や資産の含み損を通算グループへ持ち込むことはできません。その結果、通算グループ入室後において、入室前から有していた欠損金や資産の含み損が利用されることはありません。

これに対して、時価評価除外法人と判定された場合は、当該法人の欠損金や資産の含み損を通算グループへ持ち込むことができます。そのため、通算グループ入室後には、入室前から有していた欠損金や資産の含み損を利用することが可能となります。

しかし時価評価除外法人が入室前から有していた欠損金や資産の含み損は、入室後の通算グループ内の他の法人の所得と損益通算することはできません。これらは、入室後に当該時価評価除外法人自身が得た所得の範囲内でのみ利用することができます。

このように、入室前から有していた欠損金や資産の含み損を、入室後に当該法人自身の所得の範囲内でしか利用できないとするルールを「SRLYルール」といいます。

グループ通算制度導入前の専門家会合報告書では、このSRLYルールについて、以下のような見解が示されていました。

「一般に親法人はグループ経営に特有の機能を担うなど負担が大きいことから、子法人にはSRLYルールを適用する一方で、親法人にはSRLYルール適用せず、親法人が通算グループ内に持ち込んだ欠損金や資産の含み損は通算グループ内の他の法人の所得との損益通算を認めてもよいのではないか」という見解です。

しかし、最終的にはこの見解は採用されませんでした。つまり親法人についてもSRLYルールが適用され、親法人が入室前から有していた欠損金や資産の含み損は、入室後も親法人自身の所得からのみ控除できることとされています。

その理由は、親法人をSRLYルールの対象外とすると、本来は子法人となるべき欠損法人を意図的に親法人とすることで、当該法人の通算グループ入室前の欠損金や資産の含み損を入室後において通算グループ内の他の法人の所得と損益通算ができてしまうのです。このような租税回避行為を防ぐために、親法人もSRLYルールの対象とする必要があったのです。

以上から「時価評価除外法人(親法人・子法人両方)が入室前から有していた欠損金や資産の含み損は、入室後に当該時価評価除外法人自身が得た所得の範囲内でのみ利用することができる」のが原則です。

時価評価除外法人の通算グループ入室後における入室前の欠損金や資産の含み損の利用制限等

上記のように「時価評価除外法人(親法人・子法人両方)が入室前から有していた欠損金や資産の含み損は、入室後に当該時価評価除外法人自身が得た所得の範囲内でのみ利用することができる」のが原則です。

しかしこの原則には例外があります。それは「一定の場合には、時価評価除外法人が入室前から有していた欠損金や資産の含み損を、入室後に当該法人自身が得た所得から控除することが制限される」という例外です。

上記の例外が定められた理由

繰り返しになりますが、「時価評価除外法人(親法人・子法人両方)が入室前から有していた欠損金や資産の含み損は、入室後に当該時価評価除外法人自身が得た所得の範囲内でのみ利用することができる」のが原則です。

しかし、「一定の場合には、時価評価除外法人が入室前から有していた欠損金や資産の含み損を、入室後に当該法人自身が得た所得から控除することが制限される」という例外が設けられています。

このような例外規定を設けた立案担当者の解説書によると、「通算グループ内では完全支配関係があり所得の金額を一体的に計算していることから事業の移転が容易であり、欠損金又は含み損を有する法人を買収して通算グループに加入させると相前後して従前通算グループで行っていた黒字事業をその法人に移転すること又は新たに黒字事業をその法人において行うことによって特定欠損金の制度を潜脱することが考えられること」と述べています(「令和2年度税制改正の解説」財務省HP908頁)。

何を言ってるのかというと、「通算グループ内の法人は所得の金額をグループ全体で計算するから、通算グループ内のある法人が有する事業を、同じ通算グループ内の別の法人に移転して当該事業から生じる所得の発生場所を変えても、グループ全体の所得とそれに対する税金はほとんど変わらないから、通算グループ内の事業移転は容易である。そのような特徴を利用すると、欠損金や含み損を有する法人を買収して通算グループに加入させ、当該法人に同じ通算グループ内の別の法人の黒字事業を移転させ、当該黒字事業が獲得した所得から当該欠損金を控除し、または資産の含み損を実現した上で黒字事業が獲得した所得から控除することができてしまう。また欠損金や含み損を有する法人を買収して通算グループに加入させ、その法人に黒字事業を行わせることによっても、欠損金や資産の含み損の利用が可能となる。このような潜脱行為(租税回避行為)が考えられる」ということ指摘しています。つまり、本来であるなら時価評価除外法人が通算グループに持ち込んだ欠損金や資産の含み損は、当該時価評価除外法人が通算グループ入室後に得た所得からのみ控除させるべきなのに、当該時価評価除外法人に同じ通算グループ内の法人の黒字事業を移転させ、または当該時価評価除外法人に黒字事業を行わせることにより、実質的に当該時価評価除外法人の通算グループ入室前の欠損金や資産の含み損と通算グループ内の別の法人が獲得した所得の損益通算を認めていることになり、「これは潜脱行為と考えられる」と言うことです。

そこで「一定の場合上記のような潜脱行為が行われる恐れがあると客観的に認められる場合)には、時価評価除外法人が通算グループ入室前から有していた欠損金や資産の含み損を、入室後に当該法人自身が得た所得から控除することが制限される」と規定することで、上記のような潜脱行為を防止しているのです。

「一定の場合(上記のような潜脱行為が行われる恐れがあると客観的に認められる場合)」とは具体的にどのような場合であるのか

時価評価除外法人が通算グループ入室前の欠損金や資産の含み損を当該時価評価除外法人が入室後に獲得した法人所得を減額するために利用した場合、その行為に潜脱の意思があるのか否かを判定するのは容易ではありません。なぜなら潜脱の意思は心の中にあるものでありこれを外部から知ることは容易ではないからです。、そこで制度上は、一定の場合(潜脱行為が行われるおそれがあると客観的に認められる場合)を具体的に要件化しています。

その要件は以下のとおりです。

(A)
・支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合で、
・一定の期間(通算承認の効力が生じた日の5年前の日またはその時価評価除外法人の設立の日のいずれか遅い日から、通算承認の効力が生じた日まで)継続して支配関係があると認められない場合

または


(B)
・支配関係発生日以後に新たな事業を開始した場合で、
・通算承認の効力が生じた後において共同で事業を行うと認められない場合

(A)の場合
支配関係が成立した後に新しい事業を開始した法人であり、通算承認の効力発生日までの間に5年間継続して支配されていたわけではないような、両者のつながりが薄いと思われる場合です。このようなケースは「欠損金や含み損を利用するために買収して黒字事業を移した(または新たに黒字事業を行わせた)」と客観的に判断され、欠損金等の利用が制限されます。

(B)の場合
たとえば親会社が欠損金等を有する会社を買収して完全子会社にした後、その子会社に黒字事業を移転し(または新たに黒字事業を行わせ)、通算承認の効力発生日以後において、その黒字事業が通算グループ内の他の法人の事業と共同で事業を行っていないと認められる場合です。この場合も「欠損金や含み損を利用するために買収して黒字事業を移した(または新たに黒字事業を行わせた)」と客観的に判断され、欠損金等の利用が制限されます。

なお、上記の要件を満たせば「時価評価除外法人が入室前から有していた欠損金や資産の含み損を、入室後に当該法人自身が得た所得から控除することが制限される」という効果が生じます。具体的にどのような制限がなされるのかについては、法律上以下のように規定されています。

要件を満たすことによって生じる効果(簡単に言うと「時価評価除外法人が入室前から有していた欠損金や資産の含み損を、入室後に当該法人自身が得た所得から控除することが制限される」という効果)

効果(1)
・支配関係発生日の属する事業年度前の事業年度において生じた欠損金額および支配関係事業年度以後の事業年度において生じた欠損金額のうち、特定資産譲渡等損失額(64条の14の第1項)に相当する金額からなる部分の金額はないものとされる(57条8項、施行令112条の2第3項・4項)


効果(2)
・通算承認の効力発生日等からその効力発生日以後3年を経過する日と支配関係発生日以後5年を経過する日とのうちいずれか早い日までの間に生ずる特定資産譲渡等損失額が損金不算入とされる(64条の14第1項)

「特定資産譲渡等損失額」とは通算グループ入室前に保有していた資産の含み損が、通算グループ入室後に売却などによって実現した損失のことを言います。

効果(1)
上記(A)または(B)のいずれかの要件を満たした場合、「潜脱行為が行われるおそれがあると客観的に認められる場合」であると判定されます。その結果、当該法人が支配関係発生日前に有していた欠損金は通算グループ入室後に当該法人から生じた所得から控除することはできず、また、特定資産譲渡等損失額も通算グループ入室後に当該法人から生じた所得から控除することはできません。

効果(2)
上記(A)または(B)のいずれかの要件を満たした場合、「潜脱行為が行われるおそれがあると客観的に認められる場合」であると判定されます。その結果、当該法人の通算グループ入室前の資産の含み損について、通算グループ入室直後数年以内に売却などして含み損を実現した場合、当該実現した含み損(特定資産譲渡等損失額)は損金不算入とされ、当該法人の通算グループ入室後に生じた所得から控除することはできません。

その他の制限規定

グループ通算制度の損益通算を利用した租税回避行為は、通算グループ入室前の欠損金や資産の含み損を利用する方法以外にも存在します。

たとえば、法定耐用年数が経済的耐用年数よりも短い等の理由により、多額の償却費を生み出す資産を有する法人を買収し、通算グループ内で当該償却費を計上し、損益通算をすることで租税回避を行うことも考えられます。

このような租税回避行為を阻止するために、「多額の償却費の額が生じる事業年度に該当する場合には、通算承認の効力発生日からその効力発生日以後3年を経過する日と支配関係発生日以後5年を経過する日とのうちいずれか早い日までの期間内の日の属するその事業年度に生じた欠損金額について、損益通算の対象外とされた上で、特定欠損金額(下記において説明)として扱われます(64条の6第3項、64条の7第2項3号、施行令131条の8第6項)」。

グループ通算制度において登場する用語の説明

グループ通算制度においては、当該制度独自の用語が沢山存在します。ここでは、その中で「特定欠損金額」「非特定欠損金額」「特定資産譲渡等損失額」「時価評価資産」の説明をします。

「特定欠損金額」
通算グループ内の法人が、通算グループへ入室する前に有していた欠損金のことです。この欠損金は、通算グループ内の他の法人の所得と損益通算することはできず、入室後に当該法人自身に生じた所得からのみ控除することができます。

「非特定欠損金額」
通算グループ内の法人について、通算グループへ入室した後の事業年度に生じた欠損金のことです。この欠損金は、通算グループ内の他の法人の所得と損益通算することができます。

「特定資産譲渡等損失額」
通算グループ内の法人が、通算グループ入室前に有していた含み損のある資産を、通算グループ入室後に売却等することにより、実現した含み損のことです。この損失は通算グループ内の他の法人の所得と損益通算することはできず、入室後に当該法人自身に生じた所得からのみ控除することができます。「特定欠損金額」と扱いは同じになります。


「時価評価資産」
通算グループ入室時に、「時価評価除外法人」か「時価評価対象法人」のいずれかに分類されます。「時価評価対象法人」に分類された場合、
当該法人が有する資産につき時価評価を受けますが、すべての資産について時価評価を受けるのではなく「時価評価資産」につき時価評価を受けることになります。時価評価資産とは、固定資産、土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当するものを除く)有価証券、金銭債権、および繰延資産をいいます(64条の11第1項)。ただし、売買目的有価証券、償還有価証券、資産の帳簿価額が1000万円に満たない資産などは時価評価を行いません(施行令131条の15第1項2号、3号、4号)。

包括的否認規定(132条の3)

通算法人(グループ通算制度の適用を受ける法人)に係る行為または計算を否認する包括的ないし一般的否認規定として132条の3があります。

グループ通算制度では、損益通算の要素などを利用することにより、多様な租税回避行為が想定されるため、個別的否認規定に加えて、包括的な租税回避防止規定が必要であるため132条の3が規定されています。

また132条の3と同じ一般的否認規定として、132条と132条の2があります。これらの3つの条文にはそれぞれ「不当」と言う同じ文言が使われていますが、当該「不当」の解釈はそれぞれの条文ごとに違うことに注意が必要です(組織再編成税制⑤(ヤフー事件最高裁判決と132条の2)参照)。

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