組織再編税制には、組織再編成の分野における一般的否認規定として法人税法132条の2が設けられています。
税務署側が、納税者の行為や計算につき適正かどうかを判断する際には、一般的に次の3つのステップで検討が行われ、一般的否認規定である132条の2は3つ目のステップで登場します。
第1に、納税者が適用した税法上の要件を満たしているかを確認します。
要件を満たしていなければ、その税法の適用は認められず、その税法が適用されないことを前提として税額が再計算されます。
第2に、個別否認規定に該当しないかを確認します。
税法上の要件を満たしていたとしても、その行為や計算が租税回避を防止するために設けられた個別否認規定に該当する場合には、その規定に基づいて当該行為や計算が否認され、税額の再計算が行われます。
第3に、一般的否認規定に該当しないかを確認します。
税法上の要件を満たし、かつ個別否認規定にも該当しない場合であっても、なお税負担を不当に減少させる行為や計算であると判断されるときは、一般的否認規定によって当該行為や計算が否認される可能性があります。組織再編成の分野において、この役割を担うのが法人税法132条の2です。
このように、法人税法132条の2は、組織再編成を利用した租税回避行為に対応するための包括的な否認規定として位置付けられています。
今回は、一般的否認規定である132条の2が適用がされた「ヤフー事件」について解説します。
合併による繰越欠損金の引継ぎ
ヤフー事件は「合併による繰越欠損金の引継ぎ」が問題となった事件です。
そこでまず、ヤフー事件を理解するために必要となる「合併のよる繰越欠損金の引継ぎ」を中心に説明します。
✔繰越欠損金制度が存在する理由
たとえば、法人のある年において2000万円の赤字が生じました。そしてその翌年と翌々年に1000万円の利益(課税所得)を計上しました。
このような場合、「1年目の法人税はゼロ、2・3年目の法人税は200万円ずつ(1000万円×法人税率20%であるとする)」とすることは適正であるとは言えません。
なぜなら「事業年度」は法人税を計算するために便宜的に区切った期間にすぎず、もしも1年目から3年目までを「1事業年度」とするなら、当該事業年度の利益(法人所得)はゼロとなり(△2000万+1000万+1000万=0)、法人税の納税額はゼロとなるからです。
よって1年目に生じた赤字2000万円は、期間を跨いで2年目3年目の利益と相殺することが課税の公平に資すると言えます。
そこで1年目の赤字2000万円を「繰越欠損金」として計上し、2年目、3年目の黒字と相殺することを認める制度が繰越欠損金制度です。

このように繰越欠損金制度は「期間を跨いだ繰越欠損金の利用を認めることで課税の公平を図ることを目的とする制度」です。
✔法人を跨いだ繰越欠損金の利用
上記のように繰越欠損金制度は「期間を跨いだ繰越欠損金の利用を認める制度」です。
それでは「法人を跨いだ繰越欠損金の利用」は認められてしかるべきでしょうか。
法人を跨いだ繰越欠損金の利用については、以下のことを考慮する必要があります。
もし合併によって被合併法人の繰越欠損金を自由に引き継ぐことが認められるとすれば、多額の繰越欠損金を有する赤字法人は、課税上の観点から大きな価値を持つことになります。
本来、継続的な赤字により純資産がマイナスとなっている法人の事業価値は低いと考えられます。しかし、その法人が有する繰越欠損金は、黒字法人にとって課税所得を減少させる手段となり得ます。
そのため、黒字法人は赤字法人の事業を引継ぐことを目的とせず、繰越欠損金の利用による税負担の軽減を目的として、赤字法人を吸収合併しようとする可能性があるのです。
✔行田電線株式会社事件
行田電線株式会社事件(最判昭和43年5月2日民集22巻5号1067頁)は、合併時における繰越欠損金の引継ぎが争われた事件です。
判決では、合併法人による繰越欠損金の引継ぎを否定しました。判決文には以下のことが述べられています。
法人の事業年度における純益金額、欠損金額のごときは、企業会計上表示される観念的な数額にすぎず、被合併会社におけるこれらの数額は、もとより商法103条に基づき合併の効果として合併法人に当然承継される権利義務に含まれるものではない、、、、結局、合併による欠損金額の引継、その繰越控除の特典の承継のごときは、立法政策上の問題というべく、これを合理化するような条件を定めて制定される特別な立法があってはじめて認めうるものと解するのが相当、、、
つまり「繰越欠損金の引継ぎを認めるか否かは、その判断基準を法律で定め、それに基づいて引継ぎの可否を決定すべきである」と最高裁は述べている訳です。
✔平成13年度改正による組織再編税制の導入
平成13年度改正において組織再編税制が導入されました。当該税制が導入されたことで、57条2項で適格合併の場合の欠損金の引継ぎを認め、57条3項において一定の場合に適格合併の欠損金の引継ぎを制限しています。
つまり、昭和43年の行田電線株式会社事件の最高裁判決で述べていた「繰越欠損金の引継ぎを認めるか否かは、その判断基準を法律で定め、それに基づいて引継ぎの可否を決定すべきである」ということにつき、平成13年度に57条2項、3項が導入されたことで、繰越欠損金の引継ぎを認めるか否かの判断基準が法律で定められたことになります。
✔57条2項
57条2項は適格合併等が行われた場合、一定の範囲で繰越欠損金の引継ぎを認める規定です。
適格合併等が行われた場合、被合併法人等が有する未処理欠損金額は合併法人等に引継がれ、合併法人等の合併等事業年度以後の各事業年度において繰越控除されることになります(57条2項)。
✔57条3項
57条3項は、支配関係が生じてから5年を経過しない適格合併については、欠損金の引継ぎを制限する規定です。
支配関係が生じてから5年を経過しない適格合併は、適格合併の要件を満たすだけでは欠損金の引継ぎが認められません。57条3項の委任を受けた法人税法施行令112条3項各号の要件を満たしてはじめて欠損金の引継ぎが認められます。
たとえばA社とT社の間で支配関係が生じてから(株式保有関係が50%超となってから)5年を経過しない適格合併はこのままでは欠損金の引継ぎが認められず、法人税法施行令112条3項各号の要件を満たしてはじめて欠損金の引継ぎが認められます。
他方、A社とT社の間で支配関係が生じてから(株式保有関係が50%超となってから)5年を経過した後の適格合併は、その事実をもって欠損金の引継ぎが認められます。

✔法人税法施行令112条3項各号の要件
欠損金の引継ぎが認められるための要件として定められている法人税法施行令112条3項各号には以下の要件が定められています。
➀ 事業関連性要件(1号)
➁ 事業規模要件(2号)
➂ 被合併事業の同等規模継続要件(3号)
➃ 合併事業の同等規模継続要件(4号)
➄ 特定役員引継要件(5号)
これらの要件のうち、①~④の要件を満たすか、➀と⑤の要件を満たすことにより、欠損金の引継ぎが認められることになります。
✔法人税法施行令112条3項各号が定められた理由
法人税法施行令112条3項各号が定められた理由は、欠損金の引継ぎを目的とした租税回避を阻止するためです。
以下、具体例を用いて説明します。
たとえばA社は黒字企業でした。そこでA社は多額の欠損金を有するT社を適格合併してT社が有する欠損金を利用したいと思いました。しかし、A社とT社の間には支配関係(株式保有関係が50%超の関係)がありませんでした。
ところで、適格合併と認められるための要件は合併当事者の支配関係により異なります。完全支配関係(株式保有関係が100%)がある法人同士の場合、その事実をもって適格合併となります。支配関係(株式保有関係が50%超100%未満)がある法人同士の場合、3つの要件を満たせば適格合併となります。そして支配関係のない(株式保有関係が0%~50%以下)の場合、7つの要件を満たせば適格合併となります。
適格合併に該当すれば原則として欠損金の引継ぎが認められます。しかしA社とT社の間には支配関係はなく(株式保有関係が0%~50%以下)、この状態で適格合併と認められるためには7つの要件を満たす必要があり、適格合併となるためのハードルがとても高いです(ルート1)。
そこで、合併前にA社がT社の株式を取得して100%支配関係になった後で適格合併を行うか(ルート2)、または合併前にA社がT社の株式を取得して50%超100%未満の支配関係になった後で適格合併を行う(ルート3)なら、先ほどの7つの要件を満たすことなく欠損金の引継ぎを行うことができます。
このように支配関係のない法人同士の合併につき「7つの要件を満たして適格合併となり、欠損金を引継ぐ(ルート1)」よりも「合併前に支配関係を構築してから適格合併となるためのハードルを下げた後に適格合併を行って欠損金を引継ぐ(ルート2またはルート3)」方が7つの要件を満たすことなく欠損金の引継ぎが可能となります。

つまり、支配関係のない法人同士が適格合併によって欠損金の引継ぎを行いたいと考えたとき、ルート1を通らず、ルート2か3を通ることでより容易に適格合併による欠損金の引継ぎができてしまうのです。
これは租税回避行為に他ならないので、この穴を塞ぐ必要があります。そこで法人税法は別途「欠損金を引継ぐための要件」を定めました。それが法人税法施行令112条3項各号です。
つまり、いずれのルートを通っても、欠損金の引継ぎを行うための要件である「法人税法施行令112条3項各号」の要件を満たさなければ(この要件を満たすというハードルを越えなければ)、欠損金の引継ぎは認められないのです。

なお、先ほどの繰り返しになりますが、法人税法施行令112条3項は1号から5号まで規定されており、「1号から4号までを満たす」かそれとも「1号と5号を満たす」ことで欠損金の引継ぎが認められます。
一般的否認規定について
ヤフー事件は支配関係が構築されてから5年を経過しない適格合併による欠損金の引継ぎという組織再編成において、当該組織再編成に係る一般的否認規定である132条の2が適用された事件です。
そこで、ヤフー事件の理解に必要な一般的否認規定について解説します。
✔一般的否認規定の位置付け
法人税法では、一般的否認規定として「132条、132条の2、132条の3、147条の2」の4つが設けられています。
これらの一般的否認規定は担当する領域が異なります。132条は同族会社の領域、132条の2は組織再編の領域、132条の3はグループ通算制度の領域、147条の2は外国法人の恒久的施設帰属所得の領域でそれぞれ定められている一般的否認規定です。
つまり132条の2は組織再編の領域で設けられている一般的否認規定ということです。
このような一般的否認規定の位置付けをまず確認します。
冒頭に述べた話の繰り返しになりますが、ここでもう一度話をくり返します。
税務署側が、納税者の税務上の行為や計算につき適正かどうかを判断する際には、一般的に次の3つのステップで検討が行われます。
第1に、納税者が適用した税法上の要件を満たしているかを確認します。
要件を満たしていなければ、その税法の適用は認められず、その税法が適用されないことを前提として税額が再計算されます。
第2に、個別否認規定に該当しないかを確認します。
税法上の要件を満たしていたとしても、その行為や計算が租税回避を防止するために設けられた個別否認規定に該当する場合には、その規定に基づいて当該行為や計算が否認され、税額の再計算が行われます。
第3に、一般的否認規定に該当しないかを確認します。
税法上の要件を満たし、かつ個別否認規定にも該当しない場合であっても、なお税負担を不当に減少させる行為や計算であると判断されるときは、一般的否認規定によって当該行為や計算が否認される可能性があります。
このように納税者の税務上の行為や計算が適正でないと考えられるとき、税務署側は上記の3つの観点から検討を行うことになります。
一般的否認規定は第1と第2の関門を潜り抜けたものについて、最後の砦として機能するのです。
✔納税者の予測可能性
納税者に課税を行う場合には、納税者の「予測可能性」を確保する必要があります。
納税者の予測可能性とは、自らの行為や取引について、税法がどのように適用され、どのような課税関係が生じるのかを予測できることをいいます。
例えば、ある取引を行った時点で、「この取引については法人税法○○条が適用され、益金が△△円生じる」ということが予測できることです。このような予測が取引毎にできたなら、法人税の納税額もある程度予測可能となり、それに基づいた資金繰り計画を立てることが可能です。
しかし、取引を行なった時点で、「この取引については法人税法○○条が適用され、益金が△△円生じるかもしれないし、そうじゃないかもしれない」ということになると、法人税の納税額を予測できず、資金繰り計画も狂ってしまいます。
したがって、取引を行なった時点で「法人税法の何条が適用されるのか」「その結果、どれだけの税負担が生じるのか」ということを納税者が予測できるようにする必要があります。
そのためには、税法において「課税要件とその効果」を明確に規定することが必要です。それにより、取引を行なった者が「法人税法の○〇条が適用され、その結果益金が△△円生じる」ということが予測でき、納税者の予測可能性が確保できるのです。
✔一般的否認規定と個別否認規定の関係性
ところで、もしも税法上否認規定として「個別否認規定」がなく「一般的否認規定」しかなければ、どのようなことが起こりうるでしょうか。
たとえば納税者がある取引を行なって「この取引については法人税法○○条が適用され、損金が300万円生じる」と予測しても、当該取引につき一般的否認規定が発動され「この取引については法人税法□□条が適用され益金が200万円生じる」と突然税務署側から通知される可能性があります。
つまり、納税者側としては上記の取引を行なえば、一般的否認規定が発動され、取引が否認されることを予測できないのです。
そこで上記のような取引を行なえば「当該取引は否認され、益金が200万円生じてしまう」という規定(個別否認規定)を設ければ、納税者も「当該取引を行なえば個別否認規定が適用されてしまうのか」ということが予測でき、納税者は当該取引を行なうことを回避できるのです
このような個別否認規定を充実させ、一般的否認規定が適用される場面を縮小することで、納税者は自らの行為や計算にどのような税法が適用されるのかを事前に予測しやすくなり、納税者の予測可能性が向上するのです。
✔文書回答制度
文書回答制度とは、国税庁が行っている納税者サービスの一つです。
納税者が実際に行った取引や将来行う予定の取引について、その行為や計算にどのような税法が適用され、どのように課税されるのかが分からない場合に、国税当局へ事前に文書で照会し、文書による回答を受けることができる制度です。
たとえば、納税者が行った取引に係るその行為や計算について個別否認規定が適用されないことは確認済みであるが、一般的否認規定の適用を受けるか否か予測できない場合、文書で質問することで課税庁側の回答を得ることができます。
当該回答に基づき行為や計算を行うことで一般的否認規定の適用を回避できると考えれらます。
このように文書回答制度は、納税者の予測可能性の向上に資する制度として機能します。
✔4つの一般的否認規定の共通事項
法人税法には「132条、132条の2、132条の3、147条の2」という4つの一般的否認規定が定められています。
この4つの一般的否認規定に共通して言えることは「税法の要件を満たす形で租税回避の旨味だけを享受し、当該税法の趣旨や目的から逸脱した形で税法を適用する場合に、一般的否認規定が適用される可能性がある」と言うことです。
よって一般的否認規定により、行為又は計算が否認されないためのポイントは「当該税法の趣旨や目的に合致した形で税法を適用すること」と言えるのではないかと思います。
しかし、自らの行為や計算が税法の趣旨や目的に合致しているのかを判断することは容易ではありません。したがって、自らの行為や計算が税法の趣旨や目的に合致しているのかを判断するため、文書回答制度を活用することが有効であると思われます。
ヤフー事件最高裁判決(最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁)
前置きが長かったのですが、ここからいよいよ本題であるヤフー事件最高裁判決を見ていきます。
✔事案の概要
この事件は、ヤフーを合併法人、欠損金を有する法人(IDCS)を被合併法人とする適格合併において、被合併法人の欠損金を引継ぐための要件である法人税法施行令112条7項5号(現行法では同条3項5号)の「特定役員引継要件」を文言上は満たしているにもかかわらず、組織再編における一般的否認規定である132条の2を適用し、当該行為や計算を否認できるのかが争われた事件です。

合併法人であるヤフーの代表取締役Aが合併の約3か月半前にIDCSの取締役副社長に就任したこと(本件副社長就任)自体は、合併法人による欠損金の引継ぎを認める個別規定の要件を満たしていたのですが、それにもかかわらず132条の2を根拠として欠損金の引継ぎを否認することができるかが問われた事件です。
✔判決文
上記の事案に係る最高裁判決文の概略は以下のとおりです。
132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは「組織再編税制の各規程を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させること」を言う。
そして「濫用」の有無の判断は、➀当該法人の行為又は計算が通常は想定されていない組織再編成の手順や方法に基づくなど、不自然なものであること、②税負担減少という目的以外にそのような行為や計算を行うことの合理的な事業目的などが存在しないこと、の2つ。
➀と②に当てはまる場合は、「組織再編税制の各規程を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させている」と言え、当該規定の本来の趣旨や目的から逸脱した使用と認められる。
よって➀と②に当てはまる場合は、132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」と言え、132条の2の適用により当該法人の行為や計算は否認される。
上記判決文の内容を本事例に当てはめると、
➀ヤフーやIDCSの行為や計算は通常は想定されていない組織再編成の手順や方法であり、不自然である、そして➁欠損金の引継ぎという目的以外にそのような行為や計算を行うことの合理的な事業目的などが存在しない、ので「組織再編税制の各規程(57条2項・3項、施行令112条7項5号等)を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させている」と言え、当該規定の本来の趣旨や目的から逸脱した使用と認められる。
よって本件は132条の2の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」と言え、132条の2の適用により当該法人の行為や計算は否認される。
ということになります。
✔租税回避の意図
「租税回避」と「租税回避の意図」とは意味合いが違います。
「租税回避」とは「法律を濫用して税負担を軽減する行為」のことであり、「租税回避」の言葉の中に「税金を逃れてやろうという当事者の租税回避の意図」は含まれません。あくまで客観的に判断するものであり、当事者の主観は考慮しません。
これに対して「租税回避の意図」とはまさしく「税金を逃れてやろうという当時者の租税回避の意図」のことです。当事者の主観(心の中)を見ているのです。
上記に記載したヤフー事件における最高裁の判決文の概略には記載していませんでしたが、ヤフー事件判決では132条の2により行為計算を否認する際に「当事者の税負担減少の意図」を要求しています。つまりヤフー事件当事者には「税金を逃れてやろうという租税回避の意図」があることが132条の2の一般的否認規定が適用されるための要件の一つとなっているということです。
本来であれば税法の条文どおりに適用すれば、その条文通りの課税を受けるということで納税者の予測可能性が確保されます。しかし「租税回避の意図」を根拠に一般的否認規定である132条の2を適用することは、条文どおりに適用しても否認されて引き直し課税を受けることを意味し、納税者の予測可能性を損なってしまいます。
この点、最高裁判所調査官の解説では「租税回避を意図して組織再編税制に係る各規定の趣旨、目的から逸脱する態様でその適用を受けるなどした場合にのみ法132条の2の不当性要件に該当する」と述べています。つまり「租税回避の意図のみ」で132条の2が適用されることはなく、加えて「組織再編税制に係る各規定の趣旨、目的から逸脱する態様その適用を受けるなどした場合」に132条の2の適用を受けるとしています。「租税回避の意図のみ」で132条の2が適用されることはないと釘を刺しているように思われます。
✔欠損金の価値
57条2項により、原則として適格合併につき、欠損金の引継ぎを認めています。そして57条3項により、支配関係が構築されて5年を経過しない適格合併については、施行令112条3項において欠損金を引継ぐための要件を別途定め、当該要件を満たした場合に欠損金の引継ぎを認めています。
このように現代の適格合併において欠損金の引継ぎが認められる場合、欠損金の価値を考慮して合併対価が支払われるのが通常であると考えれらます。
たしかにヤフー事件控訴審判決(東京高判平成26年11月5日訴月60巻9号1967頁)において「そもそも、繰越欠損金自体に資産性はなく、それが企業間の合併で取引の対象となり得るのは、租税法がその引継ぎを認めることの反射的効果にすぎない」と規定しているとおり、欠損金には資産価値などなく、欠損金を引継ぐ対価の支払いなどは本来存在しないはずです。
しかし、もしも欠損金に対する対価を支払うことなく欠損金の引継ぎを行い、当該引継いだ欠損金を利用できたなら、それは合併対価としては安すぎたことになり、合併法人において不当な利益が生じることになります。
したがって、被合併法人の欠損金を引継ぐ場合には、欠損金の価値を見積り、それを合併対価として支払うことが通常であると考えれらます。
✔一般的否認規定に記載されている「法人税の負担を不当に減少させる」という文言について
法人税法上、一般的否認規定として「132条・132条の2・132条の3、147条の2」が定められています。
132条は同族会社の領域、132条の2は組織再編の領域、132条の3はグループ通算制度の領域、147条の2は外国法人の恒久的施設帰属所得の領域でそれぞれ定められている一般的否認規定です。
これら4つの一般的否認規定には「法人税の負担を不当に減少させる」という文言が含まれています。
「法人税の負担を『不当』に減少させる」という当該「不当性」の判断基準として、132条の2は「濫用基準(➀不自然性と➁合理的事業目的の不存在)」があることはヤフー事件の判決で確認したとおりです。
この点、同族会社の領域における一般的否認規定である132条の「不当性」の判断基準として「経済的合理性基準」が採用されていると考えるのが通説です。
つまり、これら4つの一般的否認規定には「法人税の負担を不当に減少させる」という共通の文言が使用されているにもかかわらず、その不当性の判断基準が違うため、何が不当に該当するかは、それぞれの領域ごとで異なることになります。
したがって法人税法上の同じ文言を異なる解釈で使用しているので、納税者の予測可能性を害する面があると言えるかもしれません。

