適格組織再編成の課税上の効果は「課税繰延」と言えます。
すなわち、組織再編成の段階で通常の法人税を適用すると課税されるような場合に、「適格」と判定されたなら課税繰延を認めることで、法人の機動的な組織の再編を阻害しないようにしているのです。
このような課税繰延、すなわち「課税を将来に繰延べる」ということは組織再編税制以外の場面でも登場します。
今回は法人税法において定められているいくつかの課税繰延の類型を見ていきます。
圧縮記帳による課税繰延
たとえば、何らかの資産を取得するために国から補助金を受けた場合、当該補助金は法人税法上「益金」となるので課税されますが、当該補助金収入に法人税が課税されてその分のお金が社外流出してしまうと、国が補助金を交付したことによる支援効果が法人税負担によって減殺されてしまいます(たとえば国から1000万円の補助金を受けたのに、そのうちの200万円が法人税として社外流出するなら、初めから800万円を補助金として交付すればいいということになります)。
そこで補助金を受けた事業年度において、当該補助金に課税しないための技術が「圧縮記帳」です。そして「圧縮記帳」は「補助金に課税しない」のではなく「補助金に対する課税を将来に繰延べる」ということを行います。つまり、補助金には課税されるということです(詳細は圧縮記帳(直接減額方式と積立金方式)を参照して下さい)。
具体例を使って説明します。
A社は国から1000万円の補助金を得て、1500万円の機械装置を購入しました。機械装置は「定額法、残存価額ゼロ、耐用年数5年」で減価償却します。
もしも圧縮記帳を適用しないなら、A社は補助金を受けた年に「1000万円の国庫補助金収入」を益金として計上し、法人税が課されます。そして当該機械装置の取得価額は1500万円なので、その後5年間、毎年300万円(1500万円×1年/5年)の減価償却費を計上することになります。しかし、この方法は補助金を受けた年に当該補助金1000万円に法人税が課税されるので、その分お金が社外流出し、法人の資金繰りを圧迫することにつながります。
他方、当該取引に圧縮記帳を適用すると、A社は補助金1000万円を受けた年に、同額の「機械装置圧縮損1000万円」を計上するとともに、機械装置の取得価額を1000万円減額して500万円とします。そうすると、補助金を受けた年に「国庫補助金収入1000万円」と「機械装置圧縮損1000万円」が計上され、両者が相殺されます。とすると補助金を受けた年に補助金1000万円の一部が税金として社外流出することを防げます。そして当該補助金1000万円に対する課税は免除されたのではなく、その課税が繰延べられることになります。つまり、機械装置の取得価額が1000万円圧縮され500万円となる事で、その後5年間の機械装置の減価償却費が毎年100万円(500万円×1年/5年)となり、圧縮記帳を行わない場合と比べて毎年の減価償却費が200万円減少し、その分毎年の所得は200万円増加します。言い方を変えれば「国庫補助金収入1000万円が減価償却期間である5年間で毎年200万円ずつ割り振られた」と言えます。このようにして国庫補助金収入1000万円に対する課税を繰延べるのです。
「取得価額の引き継ぎ、または取得価額の置き換え」による課税繰延
組織再編成の場面で登場するのが「取得価額の引継ぎ、または取得価額の置き換え」による課税繰延です。
たとえば、出資者Aが法人Bに土地(取得価額1000万円、時価5000万円)を現物出資し、当該現物出資が「適格現物出資」となった場合、法人側において「土地1000万円」で計上することで、出資側の土地の取得価額1000万円を引き継ぐことになります。
そして土地を出資した側は出資を受けた法人の株式を取得します。この場合の当該株式の取得価額は出資額(土地の取得価額)1000万円となります。つまり、土地の取得価額1000万円が株式の取得価額1000万円に置き換わるということです。
また、たとえばC社がD社を吸収合併し、当該合併が「適格合併」となった場合、合併法人側であるC社において被合併法人D社の資産等の取得価額を引き継ぐことになります。
そして当該適格合併において、D社株主にC社株式が交付されますが、この場合のC社株式の取得価額はD社株式の取得価額となります。つまりD社株式の取得価額がC社株式の取得価額に置き換わるということです。
このように「取得価額の引継ぎ、または取得価額の置き換え」により、法人や株主が保有する資産や株式の含み益に対する課税が繰延べられるのです。
完全支配関係がある法人間で行われる資産の譲渡における課税繰延
平成22年度に導入されたグループ法人税制により、完全支配関係がある法人間の資産の譲渡につき、課税の繰延が認められることになりました。
完全支配関係がある法人間の資産の譲渡は、あくまで「法人を跨いだ資産の譲渡」であり、通常の法人税を適用すると法人税が課されることになります。
しかし完全支配関係のある法人間の資産の譲渡は、実質的には本支店間における資産の譲渡と同じであり、本支店間の資産の譲渡には課税されず、完全支配関係にある法人間の資産の譲渡には課税されるなら、課税上不公平です。
そこで、平成22年度にグループ法人税制を導入することにより、完全支配関係がある法人間の資産の譲渡につき、課税の繰延を認めて上記の課税の不公平を是正しました。
グループ法人税制で認められる課税繰延は、上記の「圧縮記帳による課税繰延」と「取得価額の引き継ぎ、または取得価額の置き換えによる課税繰延」とはまた一味違います。
以下の具体例を使って説明します。
B社の完全親会社であるA社は、取得価額2000万円、時価5000万円の土地をB社に譲渡しました(第1の譲渡)。その後、当該土地を譲り受けたB社は支配関係のないC社に時価6000万円(B社の当該土地の保有期間中に土地の時価が1000万円値上がりした)で譲渡しました(第2の譲渡)。
A社とB社の間には完全支配関係があるので、A社からB社への土地の譲渡にはグループ法人税制が適用されて課税が繰延べられます。
第1の譲渡
A社はB社に取得価額2000万円、時価5000万円の土地を譲渡していますが、まずは通常どおりA社において「土地譲渡収入5000万円を益金計上、土地譲渡原価2000万円を損金計上」します。しかし、このままではA社において、土地譲渡収入5000万円と土地譲渡原価2000万円の差額である3000万円に法人税が課されてしまいます。そこでこの3000万円と同額の損金をA社において計上することで、当該土地譲渡時におけるA社に対する課税を繰延べるのです。
第2の譲渡
そしてB社は当該土地を時価の5000万円で受け入れることになります。つまり、B社における当該土地の取得価額は時価5000万円となります。そして、当該土地をB社が支配関係のないC社に時価の6000万円で譲渡することにより、B社において「土地譲渡収入6000万円を益金計上、土地譲渡原価5000万円を損金計上」します。
この「第2の譲渡」が行われた時点で、「第1の譲渡」でA社において行われていた3000万円の課税繰延は終了します。つまり「第2の譲渡」がなされた時点で、A社において3000万円の益金を計上するのです。
課税繰延による税金の負担者について
「圧縮記帳による課税繰延」の場合、「課税繰延の利益を受けた法人が、将来当該資産の譲渡や減価償却を通じて、その繰り延べられた所得に対する課税を受ける」ことになります。つまり、「課税繰延の恩恵を受ける法人と、将来課税繰延による税負担を負う法人が同じ」ということです。
これに対して「取得価額の引継ぎによる課税繰延」の場合、「課税繰延の利益を受けた資産の譲渡法人は、将来その繰延べられた所得に対する課税を受けることなく、資産の譲受法人が当該資産を譲渡したときに課税される」ことになります。つまり「課税繰延の恩恵を受ける法人と、将来課税繰延による税負担を負う法人が違う」ということです。
また「取得価額の置き換えによる課税繰延」の場合、「課税繰延の利益を受けた者が、将来当該資産の譲渡を通じて、その繰り延べられた所得に対する課税を受ける」ことになります。つまり、「課税繰延の恩恵を受ける者と、将来課税繰延による税負担を負う者が同じ」ということです。
そして「完全支配関係がある法人間で行われる資産の譲渡における課税繰延」の場合、「課税繰延の利益を受けた法人が、将来当該資産の再譲渡を通じてその繰延べられた所得に対する課税を受ける」ことになります。つまり、「課税繰延の恩恵を受ける法人と、将来課税繰延による税負担を負う法人が同じ」ということです。
課税繰延の効果
課税繰延は単に「今行なおうとしていた課税を将来に繰延べる」という表面的な効果だけでなく、実質的に「資金面でも得をする」という効果があります。
たとえば、1憶円の納税が1年間猶予された場合、たとえばこの1億円を年利5%で運用して、1年後に1億500万円にすることができます。
このように課税繰延は、課税繰延を受ける法人に実質的な利益を与える制度でもあるのです。

