消費税の勉強をしたことのある人なら、この「非課税取引」と「輸出免税取引」という言葉は知っていると思います。
言葉は知っていて、その仕組みもなんとなく知っているという人も、どうして両者で取扱いが異なるのか?などについては、上手く説明できない人が大半であるのではないでしょうか。
今回は非課税取引と輸出免税取引について、なぜ両者の取扱いが異なるのか、両者の取扱いが異なることでどのようなことが実現しているのかなどを説明して、その本質を探っていきたいと思います。
非課税取引
✔非課税取引の考え方とその仕組み
非課税取引の代表例として、たとえば「診療」があります。なぜ「診療」に消費税が課されないかというと、「命に係わることに消費税を課して徴収するなんて非道すぎる」という国民感情に配慮したからだと思われます。
診療を行う病院や医院などは一般人を診療するために、高額な医療器具などを購入します。そして高額な医療器具などを消費税込みで購入するため、病院や医院などに消費税負担が重くのしかかります。
非課税取引は、診療を受ける国民に消費税負担を行わせないようにするものであるので、病院や医院などが高額な医療器具を購入したときに負担した消費税を診療を受ける国民に転嫁することを予定していない仕組みであると思われます。
つまり、非課税取引は「病院や医院などが高額な医療器具を購入したときに負担した消費税を、病院や医院自らが負担して下さい」という仕組みであると思われます。
その証拠に「非課税売上を行った事業者(病院や医院)は、形式上消費税負担を消費者に転嫁して消費者から消費税を預かることができないので、非課税売上を上げるために行った課税仕入れ(高額な医療器具の購入)に係る消費税額を仕入税額控除できない」仕組みになっています。
✔実際は、非課税取引でも消費税負担は消費者に転嫁できる
上記のように非課税取引は、病院や医院が高額な医療器具を購入した際に、その消費税負担を患者に転嫁するのではなく、病院や医院がその消費税を負担する仕組みであると思われます。
しかし、病院や医院が高額な医療器具を購入した際に支払った消費税額は、病院や医院にとって負担が重く、病院や医院経営を圧迫します。
現実には、病院や医院が高額な医療器具を購入した際に支払った消費税額は、多くは診療報酬に上乗せされて患者がその消費税負担をしていると思われます。
診療報酬には「税抜価格、税込価格」というものがなく、患者は消費税負担をしていないように思われがちですが、診療報酬という本体価格に、病院や医院が高額な医療器具などを購入した際に負担した消費税を含めることで、消費税負担を患者に転嫁できるのです。
✔非課税取引による消費税負担の軽減効果
例えば、病院が医療器具を購入する際に、1,000万円の消費税を負担したとします。
診療行為が非課税取引であれば、病院はこの1,000万円を仕入税額控除できません。そのため、この負担を診療報酬に転嫁して患者に負担させ、その上で病院は所定の利益を確保することになります。
一方、もしも診療行為が課税取引であれば、医療器具の購入時に負担した消費税1,000万円をそのまま診療報酬に転嫁しても、非課税取引の場合と同じ利益を病院が確保できるとは限りません。非課税取引の場合と同じ利益を確保するには、患者に転嫁する消費税額をさらに増やす必要があります。これは消費税の計算の仕組みがそのようになっているからです。
イメージとしては、「診療行為が非課税取引であれば、病院が医療器具を購入する際に支払った消費税1000万円をそのままスライドして診療報酬に転嫁して所定の利益を確保する」ことになるのですが、「診療行為が課税取引ならば、病院が医療器具を購入する際に支払った消費税1000万円をそのままスライドして診療報酬に転嫁しても所定の利益を確保できないので、たとえば消費税1200万円を診療報酬に転嫁して所定の利益を確保する」という感じです。
つまり、診療行為を非課税取引とすることには、病院が課税仕入れ時に負担した消費税を患者に転嫁しても、診療行為を課税取引とする場合に比べて、患者の診療代の負担を低く抑えられる効果が期待できるということです。
輸出免税取引
✔仕向地主義と源産地主義
輸出免税取引の根幹には「仕向地主義」という考え方があると思われます。「仕向地主義」とは「あるモノやサービスが消費された国の政府が消費税を徴収する」という考え方のことです。例えば日本で作られたモノが日本で消費されるなら、日本政府が消費税を徴収し、アメリカで作られたモノが日本に輸入されて日本で消費されるなら、日本政府が消費税を徴収するということです。
これに対して「源産地主義」という考え方があります。「源産地主義」とは「あるモノやサービスが作られた国の政府が消費税を徴収する」という考え方のことです。例えば日本で作られたモノが日本で消費されるなら、日本政府が消費税を徴収し、アメリカで作られたモノが日本に輸入されて日本で消費されるなら、アメリカ政府が消費税を徴収するということです。
世界的には「仕向地主義」が採用されていると考えられ、日本でも「仕向地主義」が採用されています。なぜなら「源産地主義」にはデメリットがあるからです。
たとえば2026年現在、「デンマークの消費税率は25%、フランスの消費税率は20%、韓国の消費税率は10%」ですが、同じ製品を日本で販売する場合、デンマークの製品には消費税率25%が課され、フランスの製品には消費税率20%が課され、韓国の製品には10%が課されるため、課税の不公平が生じてしまいます。
そこで仕向地主義を採用することで、デンマーク、フランス、韓国の製品が日本に輸入される場合、どの国の製品にも日本の消費税率10%が課されるため、課税の公平性を保つことができます。また、日本の製品にも日本の消費税率10%が適用されるため、輸入品と日本製品の間の課税の不公平も生じません。
✔輸出免税取引の考え方とその仕組み
もしも輸出取引が非課税取引となる場合を想定します。
ある日本の輸出企業が海外に製品を販売する場合、当該取引が非課税取引となるとどうでしょうか。非課税取引となるということは、その輸出企業が行った課税仕入に係る消費税額つき仕入税額控除が出来ないということです。そうすると輸出企業の当該消費税負担をどのように解消するかが問題となります。自ら負担することも考えられますが、多くは海外に販売する製品の価格に当該消費税を上乗せして、海外の消費者に日本の消費税負担を転嫁することが考えられます。
日本の輸出企業が課税仕入に係る消費税額の負担を海外の消費者に転嫁するということは、日本の消費税負担を海外の消費者に押し付けていることになり、ひいては「日本政府が日本製品の消費者である海外の消費者から日本の消費税を徴収する」ことになります。
これは「あるモノやサービスが作られた国の政府が消費税を徴収する」という「源産地主義」であり、消費税の課税方法は「あるモノやサービスが消費された国の政府が消費税を徴収する」という「仕向地主義」であるべき、という考え方に逆行します。
よって「仕向地主義」を貫徹して、消費税の仕組みを世界的に機能させるために、日本の輸出企業が課税仕入に係る消費税額の負担を海外の消費者に転嫁するということを完全に排除する必要があります。
そこでそれを排除する方法として、「日本の輸出企業に課税仕入に係る消費税額を仕入税額控除することを認める」という仕組みを組み込むのです。
そうすると日本の輸出企業は課税仕入に係る消費税額を海外の消費者に負担させなくても、当該消費税額を仕入税額控除として計上し、「支払った消費税額>預かった消費税額」という状態を作り出して消費税の還付申告を行なえば、当該消費税負担を国から取り戻すことができるのです。
このことから「非課税取引」と「輸出免税取引」で異なる所は、仕組み的には一点であり、それは「課税仕入に係る消費税額を仕入税額控除できるか否か」です。
「非課税取引」は課税仕入に係る消費税額を仕入税額控除できません。このことにより課税仕入に係る消費税額の負担が宙に浮きますが、それを販売価格の中に含める形で消費者に転嫁しても「仕向地主義」は貫徹されます。
他方、「輸出免税取引」は課税仕入に係る消費税額を仕入税額控除することができるため、課税仕入に係る消費税額が輸出される製品の販売価格に転嫁されることはないので「仕向地主義」が貫徹されるのです。
この両者の取扱いの違いは「輸出取引の『仕向地主義』を貫徹するため」であると考えられます。

