「使途不明金」とは、「金額や支払先は判明しているけれど、支払いの目的が不明なお金のこと」を言います。
噛み砕いて言うと「事業との関連性を証明できない支出のこと」です。
そのような支出は収益獲得のための費用とはみなされず、損金算入できません。
今回はこの「使途不明金」について解説します。
また合わせて「使途秘匿金」も軽く解説します。
使途不明金と判定された場合の取扱い
税務調査で使途不明金と判定された場合、以下のような取り扱いがなされます。
✔損金算入できない
使途不明金と判定された支出は「事業との関連性を証明できない支出」であり、損金算入が認められません。つまりその額だけ課税所得が増加し、追加で法人税を納税する必要があります。
✔修正申告が必要
法人税を追加で納税しなければならないため、修正申告を行う必要があります。この場合、本税のみならず過少申告加算税や延滞税の支払いも必要となります。l
たとえば使途不明金と判定された結果、法人税を追加で100万円納税しなければならない場合、この100万円の本税だけでなく、ペナルティ的な税金として「過少申告加算税」と納税が遅延したことによる利息的な税である「延滞税」も併せて納税しなければなりません。
また、使途不明金と判定されたことにつき、納税者のうっかりミスではなく、意図的な隠蔽、偽造があった判定されれば、過少申告加算税に代えて重加算税が課されます。
この重加算税はペナルティとしての税金が増加するだけでなく「脱税行為」に課されるものであるため、税務署からの監視も厳しくなると思われます。
どのような場合に使途不明金と判定されるか
ある支出があった場合、その支出のつき事業との関連性を証明できない場合、使途不明金と判定されます。
具体的には以下のような場合に使途不明金と判定される恐れがあります。
使途不明金と判定される恐れがある場合(ある支出のつき事業との関連性を証明できない場合)
・摘要欄の記載が不明確・・・帳簿上の仕訳の摘要欄の記載が不明確で当該支出が事業と関連のある支出であるのか判明しない場合
・証拠書類がない場合・・・ある支出があったことは帳簿上記載されているが、領収書などの証拠書類がなく、本当に事業と関連のある支出がなされたのか判明しない場合
・帳簿上の仕訳、摘要欄の記載、証拠書類の保存が適正になされているが、それだけでは当該支出が事業に関連のある支出であることが判明しない場合
逆に言えば「事業との関連性を証明できる支出」であれば、使途不明金と判定されません。
したがって事業者の支出が「事業との関連性を証明できる支出」とするために対策を取っておく必要があります。
使途不明金と判定されないための対策
税務調査で、ある支出が使途不明金と判定されると、その分課税所得が増加するので、追加で法人税を納めなければなりません。
そうならないために事前の対策を建てる必要があります。
その対策が「すべての支出につき事業との関連性を証明できるようにしておくこと」です。
そうすることで使途不明金と判定される支出がなくなり、追加で法人税を納税しなければならないという事態を防ぐことができます。
使途不明金と判定されないための対策(すべての支出につき事業との関連性を証明できるようにしておくこと)
・帳簿への記帳と証拠書類の保存・・・これが一番の基本的な対策です。つまり何らかの支出をした場合、帳簿に日付、仕訳、金額を記入し、摘要欄に「支出の相手先、場所、目的など」当該取引を具体的に明確に記載し、領収書などの証拠書類を保存することです。
・帳簿への記帳と証拠書類の保存だけでは、当該支出につき事業との関連性を証明できないと思われるときは別途「メモ書き」を残しておく・・・帳簿への記帳と証拠書類の保存だけでは不十分と思われるときは、その支出が事業に関連する支出であると証明できる具体的な情報、概要を記載した「メモ書き」を作成し、証拠書類と一緒に保存しておく。特に支出額が大きい場合や、税務調査で疑われやすい勘定科目(EX 接待交際費、雑費)につき、この対策を行うのは有効と考えられる。
・なんらかの事情で領収書等の証拠書類を手に入れられなかった場合・・・支出の概要、詳細を明確に記載した「メモ書き」を作成し、証拠書類の代わりに保存しておく。
・税務調査で何らかの支出につき質問をされたときに、その支出につき事業との関連性を説明できるようにしておく
使途秘匿金
「使途不明金」と似た名前のもので「使途秘匿金」というものがあります。
✔定義
使途秘匿金とは、相当な理由なく支出先や支出理由を秘匿する支出のことをいいます。
✔使途不明金と使途秘匿金の違い
使途不明金は支出をした事業者がその使い道を隠している訳ではないが、使い道を明らかにできない支出を言います。
これに対して使途秘匿金は支出をした事業者がその使い道を故意に隠しているものを言います。
✔両者の税務処理の違い
使途不明金とは、支出額や支出先は分かっているものの、その支出が事業のためであることを証明できないお金のことです。事業のための支出と証明できないため、税務上は損金不算入とされます。
他方、使途秘匿金は、相当な理由なく支出先や支出理由を秘匿する支出であり、違法性の高い支出と認定されます。税務上は当然に損金不算入とされ、さらにその支出額×40%を法人税額に加算して納税しなければなりません。
✔使途秘匿金の趣旨
使途秘匿金があった場合に厳しい税務上の対応がなされるのは「違法な支出に罰を与えること」が目的です。
つまり支出先や支出理由を秘匿していても、それには「相当な理由」があり「違法な支出でない」と判定されれば、使途秘匿金にはならないということです。
たとえば、不特定多数の者に広告宣伝を目的として、自社のネーム入りカレンダーや扇子などを贈答した場合、支出先を全て記録しておくことはできない、という「相当の理由」があるため使途秘匿金にはなりません。
また、企業の戦略上、どうしても支出先を誰にも知られたくない場合も考えられます。この場合、税務署員がその支出に違法性がないことを確認するために、企業の秘密が漏洩しない体制を整えた上で、支出先やその理由をチェックし、使途秘匿金でないことを確認します。この場合は当然に使途秘匿金にはなりません。
最後に
今回は使途不明金を中心に解説しました。
使途不明金とは、その支出額や支出先は判明しているけど、その支出理由が分からない支出のことです。
支出の理由が不明で、その支出が事業に関連していることを証明できないため、損金に算入できず、結果的に法人税の納税額が増加してしまいます。
つまり、使途不明金が生じる主な原因は、支出があったときにその記帳と証拠書類の保存を後回しにすることです。
ある支出があったときは、その時点で帳簿への記入と証拠書類の保存をきっちりとしておけば、このような使途不明金が生じることを防ぐことができ、結果として法人税を余計に支払う必要もなくなります。
使途不明金を生じさせない一番のコツは「面倒くさがらずに、帳簿の記帳と証拠書類の保存を行うこと」だと言えます。

