・消費税は直接税なのか、間接税なのか?
・消費税は預り金ではない?
・消費税の負担者は誰なのか?
SNSではこれらが活発に議論されています。
これらの疑問について、自分なりに整理してみました。
消費税は直接税なのか、間接税なのか?
✔直接税と間接税の違い
直接税とは「納税義務者と担税者(税金を負担する者)が同一の税金のこと」です。たとえば所得税や法人税がこれにあたります。
他方、間接税とは「納税義務者と担税者(税金を負担する者)が別人の場合の税金のこと」です。つまり、納税義務者が担税者に代わって、担税者が負担した税金を納税するということです。たとえば酒税やたばこ税がこれにあたります。
✔消費税は直接税なのか、間接税なのか?
結論として「消費税を付加価値税または売上税と捉えるなら、消費税は直接税」となります。
他方「消費税を消費に対して課される税と捉えるなら、消費税は間接税」となります。
付加価値税
たとえば、事業者は100円でモノを仕入れて、これに事業者が手を加えて120円の価値にして販売しました。
この事業者が生み出した付加価値20円に課税するのが「付加価値税」です。
「付加価値税」は事業者が生み出した付加価値に課税するため、納税義務者も担税者も事業者となり、よって直接税となります。
売上税
たとえば、事業者が何らかのモノを120円で販売したなら、この120円に課税するのが「売上税」です。
「売上税」は事業者の売上に課税するため、納税義務者も担税者も事業者となり、よって直接税となります。
また「付加価値税」は付加価値に課税し、「売上税」は売上に課税します。
消費税(消費に対して課される税)
ある人がモノを消費できるということは、その人はモノを購入できるだけのお金を持っていた証拠となります。
モノを購入し消費できるだけのお金があるなら、そのお金で税金を支払えますよね?という理屈で、消費者に担税力(税金を納める力)があると認定して、消費という行為に課税するのが消費税です。
ただし、消費者に課税してしまうと、全ての消費者が消費するたびに消費税を納税しなければならず、税務署がパンクしてしまいます。これは現実的でない納税方法なので、商品を販売する事業者に消費税の納税義務者となってもらって、消費者の代わりに納税してもらうのです。
このように考えると、消費税は「納税義務者が事業者、税の負担者が消費者となり」よって間接税となります。
結局消費税は直接税なのか、間接税なのか?
消費税を付加価値税または売上税と捉えるなら、消費税は「直接税」となり、消費税を消費に対して課される税と捉えるなら、消費税は「間接税」となります。
そして、SNSでは「消費税は付加価値税または売上税だから直接税だ!」という意見と「消費税は消費に対して課される税だから間接税だ!」という意見が対立しているのです。
そこで以下では「消費税は直接税なのか、間接税なのか?」について考察します。
消費税法の条文
「消費税は直接税なのか、それとも間接税なのか?」についてどちらかをはっきりさせたければ、消費税法の条文を見るのが一番手っ取り早いのでは?ということで消費税法の条文を確認します。
ここでは消費税法第4条と第5条を確認します。
(課税の対象)
第四条 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)及び特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう。以下この章において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。
(納税義務者)
第五条 事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三十条第二項及び第三十二条を除き、以下同じ。)及び特定課税仕入れ(課税仕入れのうち特定仕入れに該当するものをいう。以下同じ。)につき、この法律により、消費税を納める義務がある。
消費税法第4条では消費税を課税するための要件が記載されています。つまり「~という要件を満たせば消費税を課税する」と規定しています。
そして消費税法第5条では消費税の納税義務者を規定しています。消費税の納税義務者は「事業者」と規定されています。
税金には「納税義務者」と「担税者(税を負担する人)」がいます。消費税法第5条を見ると消費税の「納税義務者」は「事業者」であることが規定されています。しかし消費税の「担税者」は誰であるのかは消費税法には規定されていません。
つまり、消費税法には「消費税の担税者は誰であるのか規定されていない」から、消費税法の条文だけからは、消費税が直接税なのか、間接税なのか判明しないということです。
消費税は間接税であるとする論拠
ここでは「消費税は間接税である」とする論拠を示していきたいと思います。
✔消費税の計算は、「預かった消費税額から支払った消費税額を差し引いて求める」という方法で行われている。
消費税の納税義務者は事業者です。よって事業者は消費税の計算を行うことになります。
実際の消費税の計算は「預かった消費税額-支払った消費税額」で納付すべき消費税額を求めます。
つまり簡単に言えば、「事業者は消費者から消費税を預かって、消費者の代わりに納税する」というまさに「事業者が納税義務者で、担税者が消費者」という間接税の計算体系をしているのです。
また実際の消費税の計算は「企業が生み出した付加価値×税率」で求めていません。よって消費税の計算体系は付加価値税の形をとっていません。
さらに、実際の消費税の計算は「支払った消費税を仕入税額控除できる」ため「売上×税率」だけで税額を求める売上税とも言えません。
このことから、消費税は「消費に対して課される税金、つまり間接税である」と考えられる訳です。
✔消費税転嫁対策特別措置法の存在
※「消費税転嫁対策特別措置法」の正式名称は「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」
消費税転嫁対策特別措置法という法律が以前存在しました(令和3年3月31日失効)。この法律が定められた趣旨は「消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保するため」です(消費税転嫁対策特別措置法第1条)。
この「消費税転嫁対策特別措置法」が制定されていたという事実をもって、「消費税が間接税である」ことの論拠を以下に示します。
論拠1
この法律の趣旨は「消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保する」ことです。つまりこの法律は「売手が価格に消費税を上乗せし、最終消費者にその税負担を転嫁する」という間接税の構造を前提としているのです。
もしも消費税が直接税であるなら、「税負担を最終消費者に適切に転嫁する」という表現は生まれません。間接税と考えるからこそ、この表現が使われるのです。
論拠2
この法律では法律名にも「転嫁」という用語が、そして中身の条文も「転嫁」という言葉が多用されています。
「転嫁」という用語はまさに「納税義務者(事業者)」が税負担を別の者(消費者)に移す」という典型的な間接税の仕組みを表現しているのです。
つまり、この法律は「消費税が間接税であること」を前提に作られていると言えます。
✔国税不服審判所 裁決・平成15年2月20日裁決(裁決事例集No. 65)
この判決では次のような記述があります。
消費税等は、事業者等が納税義務を負う間接税であり、消費税法は、課税事業者が行った資産の譲渡等の対価の額を課税標準としていることから、課税事業者は、実際に消費税等相当額としての金員を消費者等から預かったか否かに関係なく、課税標準等により算定された納付すべき消費税等の額を納付することが義務付けられているといえる。
この採決において消費税は「間接税」であると明記しています。
消費税が間接税であるなら、事業者は消費者から消費税を預かることで初めて消費税を納税できることになります。反対に事業者が消費者から消費税を預かることができなければ、消費税を間接税として納税できません。
この点を考慮して、採決の中身を読むと「消費者等から消費税相当額の金員を預かっていない場合も消費税の納税義務がある」としています。
しかし事業者が消費者から消費税を預かっていなければ、間接税として消費税は納税できないのは、先ほど説明した通りです。
よってこの採決文は矛盾した言い回しをしているように感じます。
消費税が直接税であるとする論拠
ここでは「消費税は直接税である」とする論拠を示していきたいと思います。
✔消費税は純粋な預り金とは言えない
消費税は「預かった消費税額-支払った消費税額」により計算します。
しかし、実際には消費税額が販売価格にどれだけ上乗せされているかは分かりません。税込価格は事業者の裁量に委ねられており、消費税の上乗せは5%かもしれないし、あるいは10%、15%かもしれません。
つまり「販売価格(税抜価格)の10%の消費税を預かり、仕入価格(税抜価格)の10%の消費税を支払う」という単純なものではないのです。
実際には「販売価格(税込価格)×10/110−仕入価格(税込価格)×10/110」により計算します。
つまり消費税は販売価格の10/110を強制的に徴収される税金と言えます。
したがって、消費税は「預かった消費税」や「支払った消費税」という考え方では完全には説明できず、純粋な間接税とは言い切れないということです。
✔消費税は付加価値税ではなく売上税と考えられる
先ほどの話の続きから考えると、消費税を付加価値税と捉えることも正しくありません。
なぜなら、付加価値税とは仕入れたモノ(たとえば100円のモノ)に付加価値を乗せて120円で売却し、付加価値分20円に対して課税するものです。
よって仕入れたモノ(たとえば100円のモノ)に付加価値を乗せたつもりでも80円でしか売却できなければ、付加価値はゼロなので、付加価値税もゼロとなります。
しかし、日本の消費税はこのように仕入れたモノ(たとえば100円のモノ)に付加価値を乗せたつもりでも80円でしか売却できなかったときも、80円×10/110=7,2円の消費税が課税されてしまいます。
つまり日本の消費税は80円という「売上」に課税されるので、「売上税」と考えるのが妥当という意見です。
✔東京地裁平成2年3月26日判決(平成元年(ワ)第5194号
SNSで「消費税は直接税である、消費税は預り金ではない」と主張される最大の論拠となる判決です。
いくつか判決の内容を抽出します。
~消費税の納税義務者(担税者)が消費者、徴収義務者が事業者であるとは解されない。
重要な部分だけを抜き出すと「消費税の担税者は消費者であるとは言えない」と述べています。
しかし、一方で以下のようなことも述べられています。
税制改革法一一条一項は、「事業者は、消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ、消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする」~
もっとも、消費税の実質的負担者が消費者であることは争いのないところである~
つまり消費税の負担者は消費者であると明言しているということです。
まとめるとこの判決文は「消費税の担税者は消費者であるとは言えないが、消費税の負担者は消費者である」と述べています。
一見すると矛盾したことを述べている見えますが、ここで区別されているのは「担税者」と「実質的負担者」という2つの概念です。
この構造は法人税や所得税とよく似ています。
法人税や所得税は直接税とされ、法律上の担税者は法人や個人ですが、その税負担の一部は価格転嫁や賃金調整などを通じて、最終的に消費者や労働者が負担していると説明できます。
つまり、
「法人税や所得税の担税者は消費者である」とは言えないが、
「法人税や所得税の負担の一部を消費者が担っている」と言える
ということです。
そして「消費税」についても、まさに同じことが言えるとこの判決は言っているのだと思います。
つまり、
「消費税の担税者は消費者である」とは言えないが、
「消費税の実質的な負担を消費者が担っている」と言える
ということです。
このように「消費税」≒「直接税である法人税や所得税」であるため、「消費税」も直接税と言えるのでは?ということです。
しかし、消費税は消費者への転嫁を前提としている税金であり、消費者への転嫁のし易さは法人税や所得税よりもはるかに高いと考えられます。
たとえば「法人税や所得税が高くなったから、値上げします」というより「消費税の税率が上がったから値上げします」という方が庶民の理解が得やすいのです。
もしも消費税を直接税と捉えるなら「法律によって消費者に転嫁しやすくさせている直接税」という説明ができそうです。
結局、消費税は直接税なのか、間接税なのか、どちらなのか?
消費税を純粋な間接税と説明することには無理があります。
また付加価値税と説明することにも無理があります。
そして日本の消費税は「販売価格×10/110」の額を強制的に納税しなければならないので、「売上税」にも見えますが、「売上税」であるなら仕入税額控除が認められてることを説明できません。
そもそも消費税は売上の10%ぴったりを消費者から預かるということができません。これができないから販売価格の10/110を預かった消費税とみなして計算しています。
色々と考察してきましたが、消費税を純粋な間接税として機能させることには無理があります。それをなんとか法律の力で無理やり間接税の枠に納めようとしているようにも感じます。
もしも今の消費税を別の税に移行させるなら「売上税」に移行させるのが一番スムーズであるように思います。消費税のメリットを維持し、デメリットを排除できそうな気がします。
ただし、売上税には仕入税額控除が認められないので、売上税が10%であると取りすぎになるため、5%位に設定するのがいいのかもしれません。
しかし、もしも売上税に移行すれば、それはそれで大問題を色々と引き起こすのだろうと思います。
【結論】
「消費税は純粋な間接税ではなく、純粋な間接税には絶対になりえないけど、法律によって純粋な間接税に少しでも近づけようとしている税金であり、その実体は売上税に酷似している」
というのが今の私の答えです。
最後に
今回は「消費税は直接税なのか、間接税なのか、事業者は消費税を預かっているのかいないのか」などについて考察しました。
この問題は長い間頭の片隅にあって、自然と「消費税は間接税である」という整理がついた状態で今回ブログを書き直し始めました。
しかし、ブログを書く中で、「消費税は売上税の要素が含まれている」ということや、「東京地裁平成2年3月26日判決(平成元年(ワ)第5194号)」の判決文を読んでみて、判決文の内容をある程度理解した結果、新しい知識が得られ、またどちらとも言えない状態になってしまいました。
今回である程度消費税の正体を見極めることができたように感じますが、おそらくまだまだ見落としている所もあると思います。
この問題は一旦時間をおいて、別の考え方が生まれてきたら、またその時に書きなおしたいと思います。

