相続税② 相続を経験する人が押さえるべき民法上の相続規定(パート2)

引き続き、民法に規定されている相続の話を続けます。

民法上「法定相続人」「法定相続人の順位」「法定相続割合」というものが定められています。

これらは一体何を意味するのか。

順を追って説明します。

法定相続人

「法定相続人」とは「被相続人の遺産を相続する権利を民法上与えられた者」を言います。

法定相続人は4者いる

「法定相続人は以下の4者」です。

配偶者
子供(子供が亡くなっているときは、孫、ひ孫、玄孫、、、)
直系尊属(父母、祖父母、、、)
兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥っ子、姪っ子)


※まずは( )のところは飛ばして下さい。後ほど説明します。

図で示すと、以下のようになります。

ここでは「被相続人のに配偶者」、「被相続人のに子供」、「被相続人のに直系尊属」、「被相続人のに兄弟姉妹」という位置関係で法定相続人を押さえて下さい。

法定相続人の分類

「法定相続人」は【在命ならば必ず法定相続人になる人】と【在命ならば法定相続人になる可能性のある人】に分類されます。

当たり前ですが、亡くなっていれば法定相続人になることはできません。

在命ならば必ず法定相続人になる人

配偶者・・・在命ならば必ず法定相続人になります

子供(子供が亡くなっているときは、孫、ひ孫、玄孫、、、)・・・在命ならば必ず法定相続人になります


在命ならば法定相続人になる可能性がある人

直系尊属(父母、祖父母)・・・在命しており、かつ子供がいないときに法定相続人になります

兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっているときは甥っ子、姪っ子)・・・在命しており、かつ子供直系尊属もいないときに法定相続人になります


※ここも( )の所は飛ばして下さい

図で表すと以下のようになります。赤枠の人は在命ならば必ず法定相続人になります。また、青枠の人は在命ならば法定相続人になる可能性があります。

法定相続人の順位

上記で説明したとおり、法定相続人は4者います。「配偶者、子供、直系尊属、兄弟姉妹」の4者です。

そしてこの4者には相続の順位が定められています。順位を定めて、その順位に沿って相続する権利が与えられるのです。

下図のとおり、第0順位から第3順位まで定められています。

・第0順位  配偶者

・第1順位  子供

・第2順位  直系尊属

・第3順位  兄弟姉妹

そして相続の順位に関連した以下のルールがあります。

・第1順位、第2順位、第3順位の人が同時に法定相続人になることはない
・第1順位については代襲相続が認めれらる
・第2順位については代襲相続が認められない
・第3順にについては甥、姪まで代襲相続が認められる

それぞれの内容を説明していきます。

第1順位、第2順位、第3順位の人が同時に法定相続人になることはない

これについては、3つのパターンに分けて説明します。

パターン1 第1順位が在命する場合

第1順位である子供(や孫、ひ孫、玄孫の誰か)が在命するならば、相続放棄しない限り、第2順位、第3順位の人たちは法定相続人になり得ません。

つまりこの場合、第0順位である配偶者(妻)と第1順位である子供たち(子供、孫、ひ孫・・・)が法定相続人になります。

パターン2 第1順位がいない場合で、第2順位が在命する場合

第1順位がいない場合(最初からいない場合や亡くなった場合)で第2順位(直系尊属)が在命していれば、第2順位の人が法定相続人になります。そしてこの場合、第3順位の人たちは法定相続人になれません。

つまり、第0順位である配偶者(妻)と第2順位である直系尊属(父母、祖父母、・・・)が法定相続人になります。

パターン3 第1順位と第2順位がいない場合で、第3順位が在命する場合

第1順位がいない場合(最初からいない場合や亡くなった場合)で、かつ第2順位も亡くなっているときは第3順位(兄弟姉妹たち)が在命していれば、第3順位の人が法定相続人になります。

つまりこの場合、第0順位である配偶者(妻)と第3順位である兄弟姉妹(甥、姪を含む)が法定相続人になります。

第1順位については代襲相続が認められる

まずは代襲相続の説明です。

代襲相続とは、本来相続人になるべき人が死亡していた場合、その人の子供が代わりに相続する制度です。

例えば、上図の左側のケースでは、被相続人に子供がいる場合、その子供が法定相続人となります。つまり、配偶者とその子供が法定相続人です。

しかし、上図の右側のケースのように、子供が既に亡くなっている場合は、その子の子供(孫)が法定相続人となります。このような代襲相続は、ひ孫や玄孫にも適用されます。従って、この場合には配偶者と亡くなった子の子供(孫)が法定相続人となります。

これを先ほどの図に当てはめて説明します。

下図のように被相続人には2人の子供がいます。これら2人の子供が存命であれば、彼らは第1順位の法定相続人となります。すなわち、配偶者が最優先の法定相続人(第0順位)となり、2人の子供はその次の順位(第1順位)の法定相続人となるのです。

しかし、下図のように、例えば2人の子供がいたけれども、1人が亡くなりその亡くなった子に子供(孫)がいた場合、生存している子供と亡くなった子の子供(孫)が第1順位の法定相続人となります(さらに曾孫や玄孫にも代襲相続が認められます)。つまり、配偶者は最優先の法定相続人(第0順位)であり、生存する子供と亡くなった子の子供(孫)はその次の順位の法定相続人(第1順位)となります。

これが第1順位における代襲相続です。

第2順位については代襲相続が認められない

第2順位とは直系尊属、すなわち父母や祖父母、曽祖父母、高祖父母のことです。直系尊属については代襲相続は認められていません。

代襲相続が認められていないとは、父母を含む上の世代に生存者がいる場合、相続はその生存している世代で完結し、それ以上、上の世代には遡らないという意味です。

例えば、上図のように、被相続人に子どもがいない場合、直系尊属が法定相続人となります。被相続人の父が既に亡くなっている場合は、被相続人の母が法定相続人となり、その世代で相続が完結するため、父方の祖父母は法定相続人とはなりません。これは、直系尊属においては代襲相続が認められていないためです。

もし仮に被相続人の両親がともに亡くなっていて、その上の祖父母が在命の時にその祖父母が法定相続人となり、その世代で相続は完結します。

第3順にについては甥、姪まで代襲相続が認められる

第1順位、第2順位がおらず、第3順位が在命する場合、第3順位の人が法定相続人になります。そして下図のように第3順位の兄が亡くなっていた場合、兄の子供(甥と姪)が代襲相続により法定相続人になります。

この代襲相続は、第3順位においては甥と姪に限定されており、それ以下の世代への代襲相続は認められていません。

法定相続割合

法定相続割合とは、被相続人の遺産を相続する際に、各法定相続人が受け取るべき遺産の割合を法律で定めたものです。これは、民法によって規定されており、法定相続人の組み合わせによって異なります。

法定相続人の組み合わせパターンとその法定相続割合は以下のとおりです。

・第0順位と第1順位の組み合わせ・・・第0順位が1/2、第1順位が1/2

・第0順位と第2順位の組み合わせ・・・第0順位が2/3、第2順位が1/3


・第0順位と第3順位の組み合わせ
・・・第0順位が3/4、第3順位が1/4

第0順位と第1順位の組み合わせ

0順位(配偶者)と第1順位(子供)の組み合わせの場合は「配偶者が1/2、子供が1/2」で遺産を相続する権利が与えられます。

上図の例で説明します。

初めに、被相続人の遺産の半分につき配偶者である妻に相続する権利が与えられます。

次に、残りの半分は子供たちに権利がありますが、子供が2人いるため、残った遺産は2人で等しく分けられます。

「残った遺産1/2×子供1人当たりの割合1/2=1/4」

結果として、配偶者は遺産の半分を、各子供は遺産の1/4を相続する権利が与えられます。

第0順位と第2順位の組み合わせ

0順位(配偶者)と第2順位(直系尊属)の組み合わせの場合は「配偶者が2/3、直系尊属が1/3」で遺産を相続する権利が与えられます。

上の図で説明します。

初めに、被相続人の遺産の2/3は配偶者である妻に相続する権利が与えられます。

次に、残りの1/3は父母に権利がありますが、父母は両方在命のため、残った遺産は2人で等しく相続する権利が与えられます。

「残った遺産1/3×父母1人当たりの割合1/2=1/6」

結果として、配偶者は遺産の2/3を、父母は各々遺産の1/6を相続する権利が与えられます。

第0順位と第3順位の組み合わせ

第0順位と第3順位の組み合わせの場合は「配偶者が3/4、兄弟姉妹が1/4」で遺産を相続する権利が与えられます。。

上図の例で説明します。

初めに、被相続人の遺産の3/4は配偶者である妻に相続する権利が与えられます。

次に、残りの1/4は兄と姉に相続する権利が与えられますが、兄弟姉妹が2人いるため、残った遺産は2人で等しく分けられます。

「残った遺産1/4×兄と姉1人当たりの割合1/2=1/8」

結果として、配偶者は遺産の3/4を、兄と姉はそれぞれ遺産の1/8を相続する権利が与えられます。

遺産は遺言書または協議により分けるのが基本

民法では、「法定相続人」「法定相続人の順位」「法定相続割合」の規定が定められています。

ただし相続の際には、この民法上の規定に従って遺産を分けなければならないわけではありません。

民法上、遺産分割は「遺言書」または「遺産分割協議」によってなされます。つまり、遺産分割は被相続人の意向や相続人間の話し合いでその割合を決めるのが原則です。

しかし、遺言書の内容に不満があり、相続人間で協議を行ったけれどもまとまらなかった場合や、遺言書が存在しないために相続人間の協議を行ったものの合意に至らない場合には、家庭裁判所など第三者が関与して遺産分割を行うことになります。

このように第三者が関与する遺産分割を行う場合、民法で定められている「法定相続人」「法定相続人の順位」「法定相続割合」の規定が遺産分割の参考として活用されます。

また「法定相続人」「法定相続人の順位」「法定相続割合」という民法の規定は、相続税を計算する際に使用することになります。

遺留分

先ほど「法定相続割合」の話をしました。

これは「法定相続人は、被相続人の遺産について、民法で定められた法定相続割合分を相続する権利を持っている」ということです。

さきほどの例で言うと、4人家族(夫、妻、娘、息子)で夫が財産を残して死亡した場合、夫の財産につき妻は1/2、子供はそれぞれ1/4を相続する権利が与えられるということです。

しかし、この法定相続人の権利が何らかの理由で侵害されることがあります。

法定相続人の権利(EX 妻は財産の1/2、子供はそれぞれ1/4を相続するという権利)が侵害される場面

・生前贈与による侵害

たとえば、夫は生前に自分の財産をすべて息子へ贈与していました。そのため、夫の死亡時点では遺産が残っておらず、妻や娘は何も相続できませんでした。本来、生前贈与がなければ妻や娘にも取得できる遺産があったはずです。したがって、このようなケースでは、妻や娘が有している「夫の財産を相続する権利」が生前贈与によって侵害されたことになります。

・遺言書による侵害

例えば、亡くなった夫が「私の全遺産を愛人に遺贈します」とか、「私の全遺産を○○団体に寄付します」などを「遺言書」に記載する場合です。このようなケースでは、残された妻、娘、息子が有している「夫の財産を相続する権利」が遺言書によって侵害されていることになります

このような法定相続人の権利の侵害は、夫の財産に頼って生計を立てようとしていた法定相続人である妻や子供たちに不利益を与えます。

そこでこのような権利の侵害があった場合、法定相続人を保護するために、法定相続人には「遺留分」という権利が与えられます。

「遺留分」とは、法定相続人にとって不利な遺産相続であっても、最低限保証されるべき相続財産の割合を指します。

各法定相続人の遺留分は以下のとおりです。

・第0順位(配偶者)の遺留分   法定相続割合の1/2
・第1順位(子供)の遺留分    法定相続割合の1/2

・第2順位(直系尊属)の遺留分  法定相続割合の1/2
・第3順位(兄弟姉妹)の遺留分  なし

※ただし、第2順位(直系尊属)のみが相続する場合(第0順位(配偶者)と第1順位(子供)がいない場合)の第2順位(直系尊属)の遺留分は法定相続割合の1/3となります。

以下に色んな相続のパターンにおける遺留分を示します。

第0順位(配偶者)と第1順位(子供)が相続する場合の各々の遺留分

・第0順位(配偶者)の遺留分   法定相続割合の1/2
・第1順位(子供)の遺留分    法定相続割合の1/2

第0順位(配偶者)と第2順位(直系尊属)が相続する場合の各々の遺留分

・第0順位(配偶者)の遺留分   法定相続割合の1/2
・第2順位(直系尊属)の遺留分  法定相続割合の1/2

第0順位(配偶者)と第3順位(兄弟姉妹)が相続する場合の各々の遺留分

・第0順位(配偶者)の遺留分   法定相続割合の1/2
・第3順位(兄弟姉妹)の遺留分  なし


第2順位(直系尊属)のみが相続する場合(第0順位(配偶者)と第1順位(子供)がいない場合)の遺留分

・第2順位(直系尊属)の遺留分  法定相続割合の1/3

第3順位(兄弟姉妹)のみが相続する場合(第0順位(配偶者)、第1順位(子供)、第2順位(直系尊属)がいない場合)の遺留分


・第3順位(兄弟姉妹)の遺留分 なし

例えば、4人家族(夫・妻・子2人)がいたとします。夫は2,000万円の財産を残して亡くなりましたが、遺言書には「全財産を愛人に遺贈する」と記されていました。

法定相続人は妻と子2人で、その法定相続分は妻が1/2、子供がそれぞれ1/4です。つまり、妻は1,000万円、子供は各500万円を相続できる権利があります。

しかし遺言によって全額が愛人に渡される内容となっているため、このままでは妻や子供の生活が不当に脅かされるおそれがあります。そこで法律は、一定割合だけは最低限相続できるよう「遺留分」という権利を認めています。

このケースで認められる遺留分は次のとおりです。

妻:法定相続分1,000万円 × 1/2 = 500万円
子供:法定相続分500万円 × 1/2 = 250万円(1人あたり)

結果として、妻は500万円、子供はそれぞれ250万円を受け取ることができ、残りの1,000万円が愛人に遺贈されることになります。

最後に

遺産分割は基本的には、遺言書や遺産分割協議をもとに行います。

しかし、これらによる遺産分割が上手くまとまらなかった場合に、「法定相続人」「法定相続人の順位」「法定相続割合」という民法の規定を基礎として、第三者が遺産分割を行います。

また、生前贈与や遺言書によって法定相続人の遺産を相続する権利が侵害される場合があります。

このような場合に備えて、法定相続人には「遺留分」という権利が与えられ、法定相続人に最低限保証されるべき相続財産を規定して、法定相続人を保護しています。

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