「組織再編税制」と「グループ法人税制」の概略

個人事業主と法人では、登場人物が異なります。個人事業主では登場せず、法人において登場する者として「法人、役員、株主」が挙げられます。

この「法人、役員、株主」は個人事業主の世界では登場しないので、これらに関する所得税法の規定は当然にありません。

「法人、役員、株主」という概念は法人の世界において登場する者であり、よって「役員法人間取引」や「株主法人間取引」が発生し、この取引に伴い「役員法人間取引に係る課税関係」や「株主法人間取引に係る課税関係」も発生するので、このような課税関係を法人税法で規定しています。当然これらの課税関係は所得税法では規定されていません。

この他にも個人事業主の世界では発生しませんが、法人の世界で発生する特殊な取引があります。

今回は「役員法人間取引」、「株主法人間取引」以外の法人の世界で発生する特殊な取引(この特殊な取引を便宜上「関連当事者間取引」と呼びます)について解説します。

法人の世界で発生する特殊な関連当事者間取引

個人の場合は結婚や出産によって家族が形成されます。

これに対して法人の場合は「生身の人間」ではないので結婚や出産をすることはできません。しかし、法人は個人とは別のやり方で「身内」や「ファミリー」を作ることができます。

法人は出産を通じて子や孫を持つことはありませんが、「分割、分社」によって子会社や孫会社を作ることができます。また、法人は結婚することはできませんが、合併をすることはできます。

そして法人の「身内」や「ファミリー」の形成は考えようによっては個人よりもずっと容易で大規模に行うことが可能です。個人は子供を100人持つということはほぼあり得ませんが、100社の子会社を持つ法人は存在しますし、個人は重婚をすることができませんが、法人は合併の後にまた別の法人と合併することができます。

このように法人は子会社化などを通じて、いわゆる「身内」や「ファミリー」と言われる法人が集まった「法人グループ」を形成します。そしてこの法人グループ間での取引が始まります。

この「法人グループ間の取引」は、個人の世界では発生しない、法人の世界においてのみ発生する取引であり、この特殊な取引が今回のテーマです。

この「法人グループ間の取引」をここでは「関連当事者間取引」と呼ぶことにします。

関連当事者間取引は大きく2つに分類される

関連当事者間取引は大きく2つに分類されます。

一つは、「法人グループを形成したり再編したりするための取引」、もう一つは「法人グループ内部で行われる取引」です。

「法人グループを形成したり再編したりするための取引」とは要するに合併や分割など組織を再編するための取引のことであり、この取引に係る課税関係を規定しているのが「組織再編税制」です。

また「法人グループ内部で行われる取引」とはたとえば法人グループ内の法人同士で資産を譲渡する取引(ex売買)などです。全く関係のない法人同士の間で資産の譲渡(ex売買)がなされた場合は通常の法人税法が適用されますが、法人グループ内の法人同士の資産の譲渡(ex売買)につき、通常の法人税法が適用されると、不具合が生じるため、このような取引につき「グループ法人税制」を規定して対処しているのです。

近年、会社法の改正によってM&Aが行いやすくなり、そして企業は競争力を高めるために積極的に事業再編を行うようになりました。

そして税制としては、これらの企業活動を阻害しないことが求められる一方で、税負担を不当に回避する行為に有効に対処できるようにしておかなければなりません。

そうした背景もあって、関連当事者間取引に係る税制は近年進化し続けています。

組織再編税制概略

関連当事者間取引のひとつに、合併や分割など組織を再編するための取引があり、この取引に係る課税関係を規定しているのが「組織再編税制」です。

たとえば、A社がT社を吸収合併するとします。吸収合併によりT社の全資産がA社に移り、T社株主はT社株式を手放して、A社株式が交付されます。合併の時点でT社の資産やT社株式に含み益があれば、通常の課税ルールの下ではこの含み益に課税がなされてしまいます(法人税法62条1項、所得税法25条1項1号等)。

しかし、合併が行われたとしても、合併の前後で元T社も、元T株主も大きな変化はありません。それにもしも合併により、当該含み益に課税されて納税義務が生じるなら、多くの企業は合併を躊躇すると思われます。

そこで「組織再編税制」では一定の要件を満たした合併を「適格合併」(法人税法2条12号の8)として扱い、組織再編成の段階で課税しないようなルールを設けているのです。

グループ法人税制概略

関連当事者間取引の一つに「法人グループ内部で行われる取引」、たとえば法人グループ内の法人同士で資産を譲渡する取引(ex売買)があり、このような取引に係る課税関係を規定しているのが「グループ法人税制」です。

たとえば、本店が支店に資産を移転しました。本店と支店は同一の法人であるため、単なる法人内部での資産の移転にすぎず、資産の譲渡にはあたりません。よって当該資産の移転につき課税されることはありません。

これに対して、親会社から100%子会社に資産の移転があった場合、同一の法人グループ内での資産の移転であるため、実質的には本店から支店に資産が移転した場合と大差はありません。しかし、親会社も子会社も法人格を有しており、ある人格から別の人格に資産を移転していることになります。よってこれは「資産の譲渡」であり、通常の課税ルール(法人税法22条2項、3項)が適用されれば、当該資産の譲渡につき課税がなされることになります。

しかし、実質的には本支店間取引と同じであるにもかかわらず、このような法人グループ内での資産譲渡に常に課税されるとなると、グループ企業はグループ内部の取引を行なえず、グループの強みが損なわれます。

そこで「グループ法人税制」では一定の要件を満たしたグループ法人間の資産の譲渡につき、譲渡の段階で課税しないルールを設けているのです。

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