法人税法22条2項は、法人に益金が生じる取引として、「有償による資産の譲渡」「有償による役務の提供」「無償による資産の譲渡」「無償による役務の提供」「無償による資産の譲受け」などを掲げています。
そして実際の取引の場面においては、常に正常な対価による取引が行われるとは限りません。無償取引、低額取引、高額取引などの取引も行われます。
このような取引が行われた場合、その取引が法人税法22条2項に掲げるいずれの類型に該当するのか、また、その結果として益金が生じるのか否かを、個別の取引ごとに判断しようとすると、煩雑になります。
そこで考えられるのが、無償取引、低額取引、高額取引といった取引をいったん「正常な対価による取引」に引き直した上で法人税を課税しようとする考え方です。このような考え方は、「一段階説」と呼ばれています。
今回はこの「一段階説」について解説します。
無償取引から益金が生じる理由
法人税法22条2項において、「無償による資産の譲渡」、「無償による役務の提供」、「無償による資産の譲受け」があった場合、益金が生じると規定されています。
このような無償取引から益金が生じる理由として、無償取引は「①有償取引+②贈与」から構成されていると説明されます。
すなわち、まず① 有償によって資産の譲渡・役務の提供がなされ、② ①において受け取った対価をその相手方に贈与する、と考えるのです。
このように考えることで、①の取引において益金が生じるため、無償取引から益金が生じると説明するのです。
しかし、法人税法22条2項において、「無償取引を上記の①と②の取引に引き直す」と規定されている訳ではありません。つまりこの説明は、無償取引から益金が生じることを説明するための便利な理屈にすぎません。
無償取引から益金が生じる理由はただ一つ、「法人税法22条2項にそう規定されているから」です。
無償取引を有償取引と擬制する一段階説
上記の説明どおり、無償取引から益金が生じる理由は、単に「法人税法22条2項にそのように規定されているから」です。
そこで、無償取引からも益金が生じることを説明する別の方法として、「無償取引を有償取引と擬制する」という方法が考えられます。
たとえば、取得価額4000万円、時価1億円の土地を贈与(無償譲渡)する場合、当該取引を無償取引ではなく有償取引とする、つまり、贈与者は当該土地を1億円で有償譲渡し、贈与を受けた者は当該土地を1億円支払って取得した、と考えるのです。
このように考えれば、無償取引から益金が生じることをストレートに説明できます。
これは本来の取引(無償取引)を有償取引に擬制している訳なので、法律上の根拠が必要となります。
つまり、法律上「無償取引は有償取引であるとみなす」と定める必要があるということです。
このように「無償取引を有償取引であるとみなす」ことを「一段階説」と言います。そして「一段階説」は法律で定める必要があるため、立法論と呼ばれます。
一段階説は無償取引のみならず、低額取引、高額取引にも適用される
一段階説は、無償取引を有償取引であるとみなすこと、もう少し言えば、無償取引を正常な対価の支払いでもって行われた取引に引き直すこと、であると言えます。
つまり、一段階説の考え方の根底には「適正所得算出説」の考え方があるのです。
ここに「適正所得算出説」とは、「正常な対価で取引を行なった者との間の課税の負担の公平を維持し、同時に法人間の競争中立性を確保するために、無償取引からも収益が発生することを擬制すべき」という考え方のことを言います。
一段階説の根底にこの「適正所得算出説」の考え方があるなら、無償取引だけでなく、低額取引や高額取引についても、正常な対価で取引が行われたものと擬制して、益金を計上し、法人税課税をすべきということになります。
このように、無償取引、低額取引、高額取引の全てにつき、一段階説に基づいて、有償取引(正常な価格での取引)がなされたものと擬制し、益金を計上して法人税課税を行うことで、適正な課税が実現するのです。
無償取引に関する立法論としての配当擬制または出資擬制
親子会社間など、特殊な関係にある会社どおしで無償取引が行われる傾向にあります。
その理由は、親子会社間などにおいて、無償取引を行なうことにつき、何らかの経済的合理性があるからです。
全く関係のない別法人どおしの間であるなら、一方的に損をする、または一方的に得をする無償取引は通常行われません。しかし、親子会社間などにおいては「グループ全体の視点」から無償取引が得なのか、損なのかという見方があるため、無償取引がグループ全体の視点から見て「得」であるなら行われるということです。
しかし、注意すべきは親子会社間などの無償取引が租税回避行為に利用されてしまうということです。
これを避けるためには、先に述べた「一段階説」が有効です。つまり、親子会社間の無償取引が租税回避を目的として行われた場合であっても、「一段階説」によって、当該無償取引が有償取引(正常な価格での取引)に引き直されて課税されるため、租税回避行為の企みを阻止することができるからです。
また、親子会社間の無償取引を利用した租税回避行為を防ぐ方法として、「当該無償取引を配当または出資と擬制する」という方法も考えられます。
つまり、たとえば親会社が子会社に資産を無償譲渡するという取引があった場合、これを子会社に対する出資と擬制する、または子会社が親会社に資産を無償譲渡するという取引があった場合に、これを親会社に対する配当と擬制する、ということです。
このように親子会社間の租税回避を目的とした無償取引を配当や出資と擬制することにより、その企みを阻止することができるのです。
ちなみにこの方法は本来の取引(無償取引)を配当や出資という株主法人間取引に擬制することであるので、「無償取引を配当や出資とみなす」という規定を設けることが必要です。つまり「立法」によって対処しなければならないということです。

