現行の法人税法では、比例税率が採用されています。比例税率とは所得の金額にかかわらず常に同じ税率を適用する方式です。法人税の基本税率は23.2%であり、課税所得が1億円でも100億円でもこの税率を乗じて税額を計算します。
これに対して、所得税法では(超過)累進税率が採用されています。個人の所得が増えるにつれて税率も高くなり、所得税の税率は5%から45%まで段階的に設定されています。
それでは、なぜ個人所得には累進税率が適用されるのに、法人所得には比例税率が適用されるのでしょうか。その理由について解説したいと思います。
理由① 法人は「生身の人間」ではないので、消費による心理的満足がない
個人所得には所得税が課税されます。所得税は(超過)累進税率が適用されます。それではなぜ個人所得には累進税率が適用されるのでしょうか。
個人所得に対して累進税率が適用される理由
個人は、得たお金を消費に使うことで心理的な満足を得ることができます。
所得の高い人は金銭的な余裕があるため、税金を多く負担してもなお消費に回せるお金が残り、十分な心理的満足を得られると考えられます。そのため、所得が高い人には高い税率が適用されます。
これに対して、所得の低い人は金銭的な余裕が少なく、税負担が重くなると消費に使えるお金がさらに減ってしまいます。そこで、所得の低い人には低い税率を適用し、生活や消費に必要なお金をできるだけ手元に残す必要があります。
よって個人所得に対して累進税率が適用されるのです。
他方、法人所得には法人税が課税されます。法人税は比例税率が適用されます。それではなぜ法人所得には比例税率が適用されるのでしょうか。
法人所得に比例税率が適用される理由
法人は「生身の人間」ではないので、消費できず、消費による心理的満足を得ることはありません。
よって法人に法人税を課税するときに、法人の消費による心理的満足を考慮する必要はありません。つまり法人の所得に高い税率を適用しようが低い税率を適用しようが「法人」自身はなにも感じることはありません。
そうであるなら、法人税率に差異を設ける必要はないため、比例税率を適用するという理屈です。
※確かに「法人」自身はなにも感じないので、比例税率でも問題はないですが、法人を取り巻く利害関係者にとっては法人税率が高いとその負担を被ることになるので大問題ですが、、、
理由② 「法人所得が大きい=その法人は金銭的に豊か」とはならない
個人の場合は「個人所得が大きい=その個人は金銭的に豊か」であると基本的には言えます。
しかし、法人の場合は「法人所得が大きい=その法人は金銭的に豊か」とは一概に言えません。
たとえば「A法人の所得が10億円、その会社で働く者が2人」である場合、1人あたり5億円の所得を稼いでいることになります。
他方「B法人の所得が100億円、その会社で働く人が1万人」である場合、1人あたり10万円の所得を稼いでいることになります。
この場合、B法人の方が多くの所得を稼いでいるから、B法人の方が金銭的に豊かとは言えません。つまり、法人所得が大きくても、それがそこで働く人の豊かさに直結するわけではないのです。
このように、法人所得の大小から法人の「豊かさ」を判断することは難しく、そのため法人所得に対して個人と同様に累進税率を適用することには無理があります。こうした事情から、法人税には、所得の大小にかかわらず一定の税率を課す比例税率が採用されているのです。
理由③ 法人に累進税率を適用しても租税回避されてしまう
仮に法人税に累進税率が適用された場合、法人は税率を下げるために所得を分散させようとします。たとえば、多くの支店を持つ法人であれば、それらの支店を子会社化することで法人所得を分散し、低い税率の適用を受けることができます。
このように法人の場合は累進税率が適用された場合、それを回避する手段があるため、法人に累進税率を適用する意味があまりないのです。
その他の理由 経済や実務に悪影響を与えるおそれがある
法人に累進税率を適用すると、企業が利益を上げるほど税負担が重くなるため、企業の経済活動を抑制してしまいます。
また、法人に累進税率を適用すると、税務計算が複雑になり、企業の事務コストが増大します。
このような点も考慮して、比例税率を適用しているとも考えられます。

